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やらかし女神と忘却の勇者  作者: 鹿苑寺ゲン
第二章 ドラグマの錬金術師
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マンティコア戦 後編

 「ユーセイの攻撃でマンティコアも弱ってきているが、それでもまだこれだけ暴れられている。おまけに奴は警戒しているから、剣や槍で急所を狙うことは難しいし、背中は強靭な筋肉で守られてて刃も通りづらい。だからこいつの動きを止めて、最後は魔法で決着をつけようと思う」

 「そんなことしなくても、俺とサレンが武技の一発でも食らわせれば倒せると思うが・・・」

 「いや、それでもダメージは与えられるが仕留めきれない。見ただろう? ゴーレムのパンチにサレンの光魔法と槍の武技、それに君の属性付与(エンチャント)で強化された武技を喰らってもマンティコアは止まらない。やつは高い知能と生命力を有している。しかし、魔法に対する耐性は物理より比較的に低い。だから高威力の魔法をぶつけてとどめを刺すんだ」

 

 ノアが淡々と説明する間にもマンティコアの猛攻は続いている。

 ここで言い合っている時間はない。それに俺はまだこの世界に来て一ヶ月しか経っていない上に無知だ。

 それなら圧倒的に、この世界の知識を有している目の前の人物に委ねるのが得策だろう。

 

 「分かった、それならノアに従う」

 「ありがとう。たしか君とサレンは五階梯以上の魔法が使えると馬車で言ってたよね? その中で詠唱を省略しても威力が高くて、十秒以内に発動出来るやつはあるかい?」

 

 いきなり注文が多いな。しかも聞いていると割と無茶苦茶な内容だぞ。

 まあ、ないことはないけど。

 

 「・・・あるさ。だがサレンの方が心配だ」

 「それは火力的な問題かな? 先程の彼女の魔法を見ていれば申し分ないと思うけど?」

 「いや、その逆。威力が出すぎて周囲を巻き添えにしかねない」

 「ちょっとぉ!! 余計なこと言わなくていいんですよ!!」

 「いだだだだだ、やめろ! ほっぺをつねるんじゃない!」

 

 サレンがぎゃーぎゃーと声を荒げ、俺の両頬をつねって抗議してきた。

 本当のことを言って何が悪いというんだ。

 スコット村のクエスト以降、ステータスは上がっているというのに、彼女の場合はどうしても『器用度』だけ、伸び具合がよくない。

 ちなみに俺の『幸運』もあまり伸びない。人によって上がりやすい項目と上がりにくい項目があるのだろうか。

 

 「ふむ、魔力コントロールの問題か。そういう時は魔力を練る時に頭で数値化してみると良いよ。ダイヤルを思い浮かべて、どれくらい魔力を回せばこれだけ威力が出るかをイメージするんだ。そうすれば寸分たりとも余計な魔力を使わずに済むんだけど・・・」

 「先生! 講義している場合ではないです! ゴーレムの体にヒビが入り始めてます!」

 

 アネモネの悲痛な叫び声に、ノアははっと我に返る。

 どうやら彼は、一度考え事をしてしまうと周りが見えなくなってしまうようだ。

 弟子の苦労もうかがえる。

 

 「こいつの余裕もなくなってきたし、手短に話そう。まずマンティコアの動きを止める方法だけど、最初にゴーレムを自壊させる。そのタイミングで三人はいったん離れるんだ。僕はそのまま魔力操作で材料だった土と石をやつに被せる。そうしたらこの固化剤を使ってマンティコアごと固めて動きを止めるという作戦さ。この役割はアネモネに頼みたい」

 「わ、分かりました!」

 

 そう言うと、ノアはベルトのポーチから一つの小瓶を取り出して弟子に渡す。

 

 「これは普段、街で建築や道路の舗装に使う薬品で固まるのに時間がかかるんだけど、僕が改良した物は液体をかけた瞬間に固まり始めるから、その点は心配ない。薬品の入っている瓶は軽く衝撃を与えれば割れるように細工してあるから、そのまま投げてくれればいいよ」

 

 なるほど、使い方は爆発用のポーションと同じか。

 瓶ごと投げて使えれば、わざわざ近寄って薬品をかけることをしなくて済むから便利な代物だ。

 こういったアイテムをぽんぽん作れるんなら、うちのパーティーにも錬金術師が欲しくなる。

 依頼が終わったらギルドでパーティー募集の張り紙を掲示してもらうか。

 

 「ただし、固化剤で動きを止めれるのは一時的だ。マンティコアが本気で暴れれば脱出されるだろう。そこでさっき二人に聞いた条件の魔法が必要というわけ。いくら魔力耐性が低いとはいえ、やつの強靭な生命力を削り切るくらいの魔法を早く撃てるのは、僕とユーセイとサレンだけだ。だから最後は、三人で一気にケリをつける」

 「了解した、任せてくれ」

 「承知しました! さっき教えてくださった魔力調整のイメージで頑張ってみますね!」


 作戦会議が終わった所で、いよいよ実行に移る。

 ここまでマンティコアの攻撃を耐えてくれていたゴーレムの体は既に穴が開き始め、外が見える様になってきている。

 

 「・・・ちょうど限界のようだね。じゃあみんな、手筈通りに頼むよ」

 

 ノアの問いかけに俺達は頷くと、彼は高らかに叫び始めた。

 

 「魔力開放!! さあみんな、離れるんだ!!」

 

 ピシッ、ピシッ、とゴーレムが崩れ始めると共に俺達はその場から退いた。

 ああ、さらばだ、ここまでありがとうゴーレム君。君のことは忘れない。

 心の中で感謝をし、自壊し始めるゴーレムを背に俺、サレン、アネモネはそれぞれの持ち場に移動する。

 マンティコアはゴーレムが崩れたのをチャンスだとばかりに思ったのか、そのままノアに向けて突進してきた。

 それを待ち構える彼の周りには、大量の砂と岩が波打つように空中を舞っている。

 

 「ふふ、来たね。君にプレゼントだ、存分に受け取ってくれ」

 

 ノアが不敵な笑みを浮かべて右手をかざすと、彼の周りを舞っていた砂と岩が一斉に突進してくるマンティコアへと襲い掛かる。

 降りかかってくる大量の砂と岩の勢いに押し負け、マンティコアの動きが止まった。

 そして目に砂が入ったのか、その場で暴れ始める。

 

 「今だ、アネモネ!」 

 「は、はい先生! これでも喰らえぇぇぇぇ!」

 

 師の掛け声に答えると、アネモネが薬品の入った小瓶を魔獣に向けて投げつける。

 小瓶は放物線を描くように飛んでいき、マンティコアへと命中すると割れて、中の液体が飛び掛かった。

 薬品を浴びたマンティコアは変わらず暴れ続けるが、体中や足元に残った砂や石が固まっていったことで、だんだんと動きが鈍くなり始める。 

 アネモネが無事に役目を果たしてくれた。あとは俺達が決めるだけだ。

 

 俺、サレン、ノアは互いに距離を取り、三角形を描くように目標のマンティコアを囲む。

 使う魔法のオーダーは、五階梯以上で、詠唱を省略しても威力が高く、十秒以内に発動できるもの。

 魔導書に書かれていた魔法では、この条件は果たせない。

 

 ならばオリジナル魔法だ。

 魔法に慣れてきた俺が次に行ったのが、このオリジナル魔法の考案である。

 紆余曲折あったが、サレン先生監修の元で雷属性と風属性それぞれで編み出すことが出来た。

 魔力を活性化させ、必要以上に威力が出ないよう、先程ノアが教えてくれたダイヤルのイメージで調整していく。

 頭の中でカチカチと機械式のようにダイヤルが回され、それに呼応するかのように体内から使用する分だけの魔力が出力される感じがした。

 うん、わかりやすくていいなこのイメージ。

 

 魔力が既定のラインにまで到達した所で、あとは詠唱だけだ。

 オリジナル魔法の詠唱文は、自身が思い描いた魔法のイメージに精通した言葉を考えて語句を並べていくのがセオリーなのだと。

 こういった語句を連想するのは俺の元いた世界の人間が大得意なんだとサレンが言っていたが、あいにく生前の記憶はどこぞの女神のせいで持ち合わせていない。

 その結果、彼女の持っている二つの世界の知識を総動員させ、なんとか完成に漕ぎつけたのだ。


 「二人とも! 魔法の準備は整ったかい!?」

 「こっちは完了だ! サレン、ちゃんと調整できたか!?」

 「ノアさんのおかげで上手く出来た気がしますが、維持が難しくてそろそろ限界です!」

 「ならばさっさと決めちゃおうか! 最後はド派手にいこう!」


 ノアの号令の下に、三人がそれぞれ詠唱を開始し始める。

 

 「数多を引き裂く、天空より来たる雷光、顕現せよ―――『ヴァジュラ』ッ!」

 「原初の零よ、根源たる神の意志の元、無限の光にて示せ―――『アインソフアウル』!」

 「氷皇の名の下に思召せ、審判の一撃―――『アイシクル・インパクト』ッッ!!」

  

 俺が放った雷の槍とサレンの魔法による光弾、そして頭上には、ノアの氷属性魔法によって作り出された巨大な氷塊が現れる。

 三方向からによる魔法の同時攻撃。

 放たれた魔法はマンティコアに着弾すると、轟音と煙を上げ、辺り一面を飲み込んでいった。

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