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やらかし女神と忘却の勇者  作者: 鹿苑寺ゲン
第二章 ドラグマの錬金術師
16/19

マンティコア戦 前編

 崖の上にいるマンティコアと目が合った。

 魔獣は獲物を発見したとばかりに牙をむきだして、こちらを一瞥する。

 そして真下にいるアネモネを目掛けて、飛び降りてきた。


 「アネモネ!! いますぐそこから離れるんだ!!」


 ノアがすぐさま叫ぶが、反応が遅れた彼女はあろうもことか尻餅をついて、その場で止まってしまう。

 俺が腰から剣を引き抜いて走り出すと同時にサレンもこちらの意図に気がついたのか、槍を手に取ってアネモネの所へ向かう。

 スキル『縮地』で一気に間合いを詰め、俺は剣を振るう。

 アネモネから比較的近い位置にいたサレンは槍を横に構えて、落ちてくるマンティコアを受け止める態勢に入っていた。

 

 「はああああッ!!」

 そして、ガキィンッ――—! と金属同士がぶつかり合うような甲高い音が岩場に鳴り響く。

 マンテイコアの鋭く尖った前足の爪と俺達の武器が打ち合ったのだ。 

 俺が左の前足、サレンが右の前足を抑えてガードする。

 

 「い、今のうちです・・・逃げてアネモネさん・・・!」

 「あっ、ああっ・・・すっ、すみません・・・!」

 

 苦しそうなサレンの言葉に、アネモネは泣きそうな顔で四つん這いで這って離れた。

 よし、これでアネモネは逃がせた。

 次はここからどうするかだが、このままマンティコアと力比べをしていたらこちらがジリ貧になる。

 後方にいるノアは、俺達が離れないと魔法が使えない。

 それにしてもこいつ、なんて力だよ・・・! 俺とサレンの二人がかりでも押し返せないなんて!

 

 剣を握りしめて踏ん張っている中、悠長に考えている暇はない。

 ひょろひょろと動いていたマンティコアの尻尾がこちらを向いているのが分かったからだ。

 まずい、このまま動けずにいたら尻尾の攻撃をまともに喰らってしまう。

 やつの尻尾には毒を含んだ無数の棘があり、それに刺されれば無事では済まされない。

 サレンと錬金術師の二人のおかげで怪我による致命傷と毒の心配はあまりないが、それでも痛い思いをしたくないのが本音だ。


 「まずいぞ、サレン。このまま押し相撲を続けてたらやつの尻尾で、俺達のどちらかが先に脱落だ」

 「正直なところ、私そろそろ限界なので先に抜けるかもしれません・・・」

 「ばっ、馬鹿っ、もう少し我慢しろ! いいか! 俺のカウントでタイミングを合わせて一度離れるぞ! 3、2、1、0でいくからな! 0で下がるんだぞ! 1じゃないからな!」

 「わ、分かりましたから早く! 早くお願いします! もう腕が限界なので!」

 

 どうやら限界が近いのは俺達のようだ。サレンは必死の形相で訴えてくる。 

 一般の冒険者よりステータスが高い彼女であってもマンティコア程の巨体を支えるのはきついらしい。

 

 「よしいくぞ! 3、2、1―――!」

 

 最後のカウントで抜けようとした瞬間――急に体がふっと軽くなった。

 ボゴォンッ――!! というにぶい音と共に突然、マンティコアが離れたのだ。

 そのマンティコアはというと、そのまま勢いよく後ろに吹き飛び、背中から崖に叩きつけらていた。

 

 「たっ、助かったぁ・・・! あれっ? カウントって最後までしました?」

 「いや、してない。それよりも一体何が・・・?」

 

 サレンが押し相撲からやっと解放されて安堵する中、俺は後ろを振り返る。

 するとそこには―――土と岩で出来た巨人がいた。

 

 「お待たせ。二人が持ちこたえてくれたおかげで、大きいのが作れたよ」

 

 顔に笑みを浮かべるノアが、巨人をぺしぺしと叩いて言う。

 

 「あれは先生が最も得意としている地属性魔法――『クリエイト・ゴーレム』です」

 

 悠然とそびえ立つマンティコアと同等の大きさの巨人を見てあんぐりしている中、落ち着いたアネモネが説明してくれた。

 先程マンティコアが突然吹っ飛んだのは、ゴーレムによるパンチを喰らったからである。

 ノアとアネモネが使える魔法の属性は馬車で事前に聞いていたが、どんな魔法が使えるかまでは攻撃魔法と補助魔法という括りだけで、詳細までは聞いていなかった。

 それがついにこの場でお披露目というわけだ。


 「ユーセイさん、サレンさん、先程はありがとうございました。お二人が守ってくれなければ、私はあのままマンティコアの餌食になっているところでした・・・」

 「良いってことよ。それに反省会をするにはまだ早い。魔獣はすぐに起きてくるぞ」

 「私達は仲間なんですからこれくらい当然のことですよ。さあ、切り替えていきましょ、アネモネさん」

 「はい!」

 

 こちらに礼を告げるアネモネに簡単に答えると、再びマンティコアの方に振り返る。

 崖に叩きつけられたマンティコアはよろよろと起き上がると、翼をはためかせて空に舞い上がった。

 上空にいられては、剣や槍、そしてゴーレムの攻撃は当てられない。

 ならばここは魔法の出番だ。

 

 「あっ、言ってませんでしたが、先生はゴーレム起動中の間は他の魔法が使えないので、私達で対処しましょ!」

 「ちょっ、それは早く言ってくれ! ええい、やるぞ! サレン!」

 「撃ち落とせばいいんですね! 任せてください!」


 アネモネの言葉にノアは、少し申し訳なさそうな顔をしていた。

 一方でサレンのことも心配だが、彼女の魔法の火力は必要だ。俺は慌てて号令を行うと、体内の魔力を走らせて詠唱を開始する。

 サレンと散々練習し、色々なクエストをこなして俺の雷と風の魔法は実戦レベルにまで達してきた。

 だから今ではこうしてスムーズに魔力のコントロールも可能となった。これも努力のたまものだな。

 

 「大地を蹂躙し破壊せよ双頭の暴風―――『ツイン・テンペスト』!」

 「疾走せし極光の剣―――『ミストルティン』!」

 「眠りし赤き力、目覚めよ炎神、集う焔は汝の脅威を撃ち滅ぼす火の裁きである――『フレア・ディンギル』!」

 

 三人の魔法によってそれぞれ放たれた、二つの竜巻、三つの光の剣、無数の炎による砲撃が空を駆け抜けて、マンティコアを猛追する。

 俺の風属性魔法は巧みにかわされたが、アネモネの火属性魔法による弾幕には苦戦しているようで、空中での動きが鈍くなっている。

 その隙を逃さんとばかりにサレンの放った光属性魔法による三つの極光の剣が、マンティコアに着弾した。

 甲高い声を上げ、魔法をまともに喰らったマンティコアは煙を上げて墜落する。

 やったかと思いきや、すぐさま空中で態勢を立て直して再び空を舞い始める。

 そして標的を定めたのか、空から急降下してこちらに突っ込んできた。

 

 「みんなゴーレムの側に寄るんだ! このままあいつを捕まえる!」

 

 ノアの指示に従い、俺達は走ってゴーレムの所へと向かう。

 ゴーレムの巨体による鉄壁の防御であれば、マンティコアの質量による突進も物ともしないはず。

 マンティコアが空中から猛スピードで突っ込んでくる中、それを迎え撃とうとゴーレムが両腕を構え始める。

 しかし――巨体故なのかゴーレムの動きがゆっくりすぎて、マンティコアの方のスピードが上回っており、突進をまともに受けてしまう。

 そしてあろうもことか、マンティコアの突進による勢いに負けてしまい、ゴーレムは体制を崩し、大気を震わせる程の音を出して大の字に倒れてしまった。

 

 「おいいいいい! 捕まえるどころか押し負けてるじゃねえか!!」

 「岩の分量が多かったな・・・土の割合をもう少し上げればスムーズに動くか、いやそうしたら強度が・・・」

 「先生、冷静に分析している場合じゃないです! マンティコアがこっちを見ていますよ!?」

 

 ゴーレムを打倒したマンティコアの標的は、次にそれを操っていたノアに向けられていた。

 しかし錬金術師にとっては予想外のことが起きたようで、思考モードに突入しており、弟子の声によってはっと我に返る。

 その間、魔獣は待ってくれる程の優しさなんて持ち合わせちゃいない。それどころか高い知能を持っているため、獲物の僅かな隙を見逃さないのだ。

 地面に着地したマンティコアが、ノアとアネモネに目掛けて飛び掛かる。

 

 「させません! 武技――『アルス・ノヴァ』!!」

 「ガフッ!」

 

 二人をかばうためにサレンが飛び上がると、手に持った光り輝く槍を横薙ぎに振るった。

 顔面に槍の一撃を喰らったマンティコアは、そのまま宙に仰け反る。

 このまま追撃をするために、俺は剣を横に構え、手を当てて叫ぶ。

 

 「『属性付与(エンチャント):雷』――!」

 

 途端に剣と体の周りに紫色の紫電が走り始める。

 属性付与(エンチャント)――これは自身の適正属性を身体や物に付与する無属性の魔法だ。

 効果の持続時間は一時的なもので、長くても数分が限度。

 「詠唱もなく、誰でも使える無属性の魔法の中でも簡単な魔法だから覚えておいて損はない」と言われ、サレンから教わったのだ。

 俺が扱えるのは雷と風の属性。この二つの属性は武器に纏わせれば破壊力がまし、身体に纏わせれば爆発的な加速力を得るため、極めて万能で扱いやすい。

 

 雷の属性付与によって『縮地』の速さは強化され、瞬間移動ともいえるスピードでマンティコアに接近する。

 サレンの一撃でマンティコアは仰け反っているため、腹部が剝き出しになっている。

 いくら魔獣でも生物の急所の位置は根本的に変わらないはず。

 そこに一太刀浴びせれば、例え仕留められなくても手負いに出来ると確信し、俺は雷を纏った剣を真上に構える。

 

 「『武御雷(タケミカズチ)』―――!!」

 

 雷の属性付与によって強化された剣の武技が、マンティコアに向かって振り下ろされた。

 バリバリバリィ――と落雷の轟音と共に血しぶきが上がる。

 

 「ガアアアアアアアアアアッ!!」

 

 やはり急所だったのか、マンティコアから聞いたことのない鳴き声が響き渡った。

 しかし致命傷には至らなかったようで、俺をにらみつけると機敏な動きでその場から飛び退く。 

 マンティコアは俺から距離を取ると、サソリのような長い尻尾の先端をこちらに向けてきた。

 間違いなく毒の棘が来る。しかも今の一撃でやつは、恐らく俺を警戒している。

 毒で動けなくさせて、天敵を黙らせようという魂胆なのだろう。 

 

 「さて、汚名返上と行こうか! みんな一か所に固まってくれ!」

 

 ノアの号令の下、俺達が一堂に会したその瞬間――バスンッという音がした。

 マンティコアの尻尾から毒の棘が発射されたのだ。

 一歩遅かった・・・と思いきや、寸前の所でゴーレムの到着が間に合い、俺達に覆い被さって、毒の棘から身を挺して守ってくれた。

  

 「グァオオオオオオオオオオン!!」

 

 マンティコアの咆哮が声高に聞こえてくる。

 渾身の毒の棘を防がれたのが、余程悔しいんだろうか。

 咆哮が聞こえてきた後、外側からドンッ、ドンッ、と何かがぶつかる音がし始め、その振動と衝撃がゴーレムの内側にいる俺達に響いてくる。

 恐らくゴーレムに向かって、マンティコアは怒り交じりに何度も体当たりを行っているのだろう。

 

 「しばらくは時間が稼げるな。今のうちに作戦会議をしよう」

 

 息をつくのも束の間、ノアからそんな申し出を受けることになる。

 

一話分にすると長くなってしまい、読みにくくなってしまうので

二話分に分けました。

後編はすぐに投稿できるかと思います。

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