アレグラ大森林を行く
今回はこの世界の地理的な内容が入ってきます。
かくして俺達一行は馬車を走らせて、マンティコアが巣食うアレグラ大森林へと向かった。
ティンレアの街から産業都市ドラグマはそう遠くない距離だ。
道中は森や山もない平野で、商人や冒険者などの移動が多いため、街道として綺麗に整備されている。
数時間ほど馬車に揺られて南へと進んで行き、ドラグマの街を素通りして木々の生い茂るアレグラ大森林にたどり着く。
大森林の入り口には関所と宿場があるので、馬車はそこに置いていくことにした。
なんでこんな所に関所があるんだと疑問に思った所、どうやら大森林を抜けた先は『マギアス皇国』という国との国境になっているのだとか。
俺達がいる国とマギアス皇国は国交を結んでおり、条約で両国間の出入りに制限は設けていないため、大森林を冒険中うっかり国境を越えてしまっても罰せられる心配はないとノアが教えてくれた。
マンテイコアの住処の案内はノアにお願いし、その後ろでいつでも飛び出せるように俺とサレンが構え、最後尾にアネモネという形で森の中を歩いて行く。
「なあ、国境に近い上に地図的に大森林がドラグマまでの最短距離な貿易ルートなら、マンテイコアがいたら皇国側も困っているだろう? 向こうから討伐隊が来ることはないのか?」
「今のところ皇国側から討伐隊派遣の申出は来ていないようだけど、王都襲撃の情報が届いたら来るかもしれないね。それに良い質問だけど・・・考えてみるんだ。他国から武装した勢力が、僕たちの国に『魔物の討伐』という名目だけで来るとは限らない。そりゃ国交を結んでるんだし、性善説を信じたいけど、世の中そんなに甘くないさ。そのまま近隣の街や都市を攻め込んで侵攻してくることも十分ありえる。だから、こういうことは自国で対処するのが一番良いんだ」
「なるほどねぇ・・・討伐隊派遣なんて他国に軍隊を送り込む大義名分になるもんなぁ」
ノアの説明に俺は思わず感嘆してしまう。
一般人目線からすれば真っ先に性善説を優先して考えてしまいがちだが、ノアは国の目線となって物事を考えている。
それは日頃から物事を研究し、見聞を深めている学者故なのか、それともギルドの支部長だからこそなのか。
どちらにせよ、彼には頭が上がらない。
「ギルド所員達の話によると、マンテイコアは山脈側の辺りを住処にしているらしい。ここから道が険しくなるからみんな足元に気をつけて。アネモネ、念のため後方に注意して歩いてくれ」
「は、はい、先生! うう、足手まといにならないようにしなくちゃ・・・」
「大丈夫ですよ、アネモネさん。何かあっても私と遊星さんがしっかりとカバーしますから」
気負うアネモネに向かって、サレンが優しく声をかけて励ます。
それを見て師匠の方は安心したのか、背を向けて段差を上がって行った。
魔物の住処に向かうわけだし、俺の方もそろそろ『第六感』を使うか。
辺りに神経を尖らせ、俺もスキルを使い始める。
何かあった時に即座に対応出来るようにしておかないと、護衛は務まらないしな。
山側に近くなってくると、木々が少なくなりはじめ、代わりに大きな岩や崖が目立つようになってきた。
あれ? 大森林だよな? と思いきや、この付近は前回魔法の練習をしていた時に来た、ノレド山脈に近い位置らしい。
地図上では北にあるティンレアの街から、南方に位置するアレグラ大森林まで縦長に山脈が続いているのだ。
「だいぶ歩いたね。あそこの岩場の辺りで休憩しようか」
ノアの提案の元に俺達は一旦休息を取ることにした。
「道がだいぶ険しくなってきたな・・・」
「足というかふくらはぎの辺りが痛くなってきました・・・」
「山道は慣れないときついですからね。足を延ばしてよーくマッサージすると良いですよ」
俺とサレンの冒険者コンビが岩場にぐたりと座り込む中、錬金術師組の二人は平気そうな顔をしていた。
フィールドワークでこういった道も歩き慣れているのだろうか。
錬金術師というのは研究のために部屋に籠っているイメージがあったが、それは改める必要があるな。
「良い景色だね。見てごらん、あそこがドラグマであっちに見えるのがティンレアの街さ」
水筒の水を飲みながら、ノアが涼しげな顔で景色を指さす。
気がつけば二つの街を見下ろせる所まで歩いて来ていた。
たしかに絶景だ。こんな所までよく来たなぁ・・・と俺も水筒片手に感慨深く景色を眺める。
「あ、そうだ! クッキー焼いてきたんです。せっかくですから、皆さんよかったら召し上がってください」
「わーいクッキー!! 私食べたいでーす!!」
絶景を楽しむ俺の後ろで、女性陣がきゃーきゃーとお菓子で盛り上がっている。
若い女子達が仲睦まじい様子で過ごしているのを見るのは、目の保養になりますなぁ。
いや、サレンは外見は十代の女の子だけど、実際は何百歳? 何千歳? てか神に年齢とかあるのか?
うーん、これ以上は考えないでおこう。消し炭になりたくないし。
「ユーセイは食べないのかい? アネモネの作るクッキーは美味しいよ。彼女の作るお菓子はどれも絶品なんだ」
「へえ、味は師匠のお墨付きか。小腹も空いたし、せっかくだから俺も頂くとするかな」
実はこう見えて甘い物には目がなかったりする。これは記憶喪失になる前からだろうか。
なんにせよ、そんなに美味しいのなら、期待大だな。
椅子代わりに座っていた岩場から立ち上がり、クッキーを配るアネモネの元に向かおうとしたその時だった。
何か大きな影が俺達の頭上を通り過ぎ、崖の上に着地する。
しまった。
お菓子に目がくらんでつい気を緩めてしまい、警戒を怠ってしまった。
たった今、崖の上に現れた物の正体――それはサソリのような尾とコウモリを模した羽を生やした獅子。
3m程の巨体な体躯をした凶暴で凶悪な魔獣、マンティコアであった。
次回はいよいよマンティコア戦です。
前回のゴブリンやオーガとは違って、戦闘描写が少し濃い内容になると思います。
既に書き始めてますが、文字数が多くなってきてるので二話分にするかもしれません。




