錬金術師 ノア
新型コロナウィルスに感染してしまい、更新が遅れました。
異世界に来てから約一ヶ月が過ぎた。
俺とサレンは驚異的なステータスと神々の加護による力もあって、難易度の高いクエストを達成していき、冒険者ランクはFからCにまで上がった。
高い実力だけでなく異例な早さのランクアップをした男女二人組の話は冒険者ギルド内だけでなく街全体にもひろまり、今の俺達はティンレアの街ではちょっとした有名人らしい。
高難易度クエストの報酬でサレンのお財布事情もかなり景気が良くなり、俺に借りてたお金も返済を終えて今では自分で宿代を払い、朝食やクエスト達成後の飲み会では豪快に注文をしている。
少し前は朝食のサンドウィッチとコーヒーのセットの金額に頭を抱えていたというのに、今では嘘のような生活っぷりだ。
そんなある日のこと、いつも通り宿屋で朝食を終えてギルドへ向かい、クエストボードへと向かおうとすると、俺達に気づいた職員の人が慌てた表情でこちらに駆け寄ってきた。
「あっ、ユーセイさんにサレンさん! お二方にご指名の依頼が入っているのですが、もう他にクエストを受けられましたか!?」
「いや、まだだけど・・・俺達に?」
「はい! 現在依頼主の方がお越しになられて二階の部屋で待っているので、早急に来ていただきたいのですが・・・」
「それでしたらお待たせするわけにも行かないですし、早速向かいましょうか」
特に断る理由もないので、ひとまず話を聞くことにしよう。
ついにご指名の依頼を受けるようになるほど有名になったんだなぁと、しみじみ感じながら職員に案内されて階段を上がっていく。
冒険者ギルドの三階建ての建物で、一階は言わずもがな酒場とクエストや冒険者登録が行える受付所、二階は来賓向けの応接室、三階はギルド長の部屋と職員達の休憩所となっている。
ギルド内の規則で一般的に冒険者は二階と三階の立ち入りは出来ないのだが、依頼者との面会やギルドに特別招集された際は例外とされている。
広間を通って廊下を歩いて行き、何部屋かあるうちの一室前で職員は立ち止まると、ノックして扉を開けた。
「失礼します。ご指名されていた2名をお連れしました」
職員がおじぎをしてそう言うと俺達の方に振り返って手の平を横にし、部屋に入るように促した。
俺とサレンも同様に「失礼します」と一言述べて会釈をして中に入る。
部屋に入ると、比較的同年代ほどの若い男女の二人組がソファーに腰かけていた。
男の方は灰色の混じったブロンドの髪を短く縛っており、グレーのシャツに赤いネクタイ、その上に襟にファーのついた白いコートを身に着けていて、その風貌は学者のように見える。
一方女の方は黒いリボンのついた白いブラウスにロングスカート姿で、茶髪の三つ編みおさげと丸眼鏡が特徴的且つ気弱なイメージが見受けられる。
「ありがとう、そして初めまして二人とも。突然呼び出してすまなかったね。まずはそこに座ってもらえるかな?」
男が優しそうな声音でそう言うので、俺達は言葉に従って反対側に腰かける。
職員は一例をすると静かに扉を閉めて退出してしまった。
「さて、まずは自己紹介だね。僕はノア・クラフト。産業都市ドラグマの生産ギルド長を務めている錬金術師だ。気軽にノアって呼んでくれて構わない」
「わ、私は助手のアネモネ・グレースです! よろしくお願いしますぅ・・・!」
二人は座った状態で自己紹介をし、軽く一礼をする。
「俺は九重遊星。遊星でも間をちょっと伸ばしてユーセイでも呼びやすい方で呼んでください」
「私はサレンと申します。まさか、かの有名な国家錬金術師のノア様にご指名の依頼を頂けるなんて・・・冒険者として光栄に思います」
隣に座るサレンの言葉に俺は思わず目を見開く。
・・・え? 今、かの有名な国家錬金術師とか言ってなかった?
「サレンさんサレンさん、このお方のことはご存知なんですか?」
目の前に座る錬金術師様に両手の平を向けて、おそるおそる相方に確認を取る。
「その言葉、そっくりそのままお返ししますね」
隣に座る彼女は、ニコッとした顔で静かに怒っていた。
要するに「お前、この人の立場を知っててさっきの自己紹介をしたんじゃねえのか?」(意訳) ということだ。
うーむ、これはよもやだ。こんな偉い人とは知らなかったぞ。
確かに喋り方や風貌を見るに気品を感じたけど、まさかの王国お抱えの錬金術師様だったとはな。
礼儀がなっていないとか難癖付けられてせっかくの依頼を取り下げられるわけにはいかないし、ここは改めよう。
「ノア様、申し訳ございません。よもや御高名な方とは知らず・・・無知な私をお許しください」
俺がそう言うと、錬金術師は額に手あててため息をついた。
「うん、二人ともまずは口調をなんとかしようか。国家錬金術師と肩書きは付いているけど、僕は貴族の出ではないから君達とは対等だ。だから普通に話してくれて構わないよ」
「・・・だそうだ。依頼者がそう言うんだから無下に出来ないよなぁ、サレン君」
サレンの肩をポンポンっと叩いて言うと、キッと怖い顔でにらみつけてきた。
あとで何をされるか分からないが放っておこう。
「すいません。あのう、そろそろ本題に入りませんか・・・?」
変なやり取りが続いて話が進まないため、気弱な声で助手のアネモネがそう述べる。
「ありがとう、アネモネ。話は僕からしよう。五日ほど前にドラグマから南方にあるアレグラ大森林に突然マンティコアが住み着き始めたんだ。大森林は薬の生成に必要な植物、建築に必要な樹木や鉱石の取れる洞窟もあるから産業都市ドラグマにとってはまさに要の場所なんだけど、危険な魔獣がいるせいで思うように採取が出来ず、材料不足で街の産業が止まってしまう不測の事態になった。それで、冒険者ギルドに依頼しに来たというわけさ」
ノアは淡々と依頼の詳細を話すと、やれやれと肩をすくめた。
マンティコアはサソリのような尾を持ち、翼をはやした巨大なライオンのような魔物だ。
ギルドにあった魔物の辞典を読んだ時に書いてあったのが、凶暴で強力な魔物であり、強靭な爪で切り裂かれればひとたまりもなく、尻尾から繰り出される棘には猛毒が含まれており、その毒は通常の解毒薬では効果がなく、特殊な解毒薬または第五階梯以上の回復魔法を使わなければ十分足らずで絶命するという。
「・・・Cクラスの冒険者に討伐依頼する魔物じゃないと思うんだけど?」
「普通なら王都にいるAランクやBランクの冒険者に頼むような依頼なんだけど、そうも言っていられない事態でね・・・」
「何か事情があるんですか?」
「まだティンレアのギルドや街中には広まっていない情報だと思うけど、今朝方ドラグマの領主様から聞いたんだ。なんでも昨日――王都が魔物の大群に襲撃されたらしい」
「「ええ!?」」
衝撃の内容に俺とサレンは、同時に大声を上げてしまう。
驚く俺達を見て一瞬黙ってうなずくと、ノアは再び話をつづけた。
「騎士団と冒険者ギルドで魔物は撃退したものの両陣営とも被害が酷く、死亡者や怪我人も多数出ているから落ち着くまで最低でも一週間はかかるだろうね。それで途方に暮れていたら、アネモネからティンレアに凄腕の二人組の冒険者がいるという話を聞いて、こうして駆け付けたんだ」
「・・・お二人の噂は重ね重ね聞いております。魔猪ディアルマッドやグリフォンを討伐し、僅か一か月足らずでFランクからCランクにまで上り詰めた二人組のスーパールーキーがいると」
「とうに僕たちはこんな状況で奇跡にすがる余裕もない。だけど君達ならこの依頼を達成出来ると見込んでいる。どうか、ドラグマのために力を貸してくれないか」
そう言って、ノアとアネモネは深々と頭を下げた。
端的にいってしまえば、王都のギルドが魔物の襲撃によって機能していないため、俺達に依頼しに来たということだ。
しかし、彼等が自分達の街を思う気持ちは本当だ。言葉と態度に熱意がしっかり伝わってくる。
俺はサレンほど素直じゃないからひねくれた見方をしてしまうが、彼らの期待に答えてやってもいいかもな。
それに有名な国家錬金術師からご指名の依頼を受けて達成したとなれば、更に実力を示せるし、Bランクに昇格も間違いない。
「分かった。引き受けるよ、その仕事。ドラグマの命運がかかっているなら、尚更引き受けないわけにはいかないしな」
少し考えたうえで俺が承諾すると、隣に座るサレンがニコッと笑った。
「ふふ、待ってましたよその言葉。まあ、仮に遊星さんが断ろとしても、私が引き受けて、そのまま勢いで付き合わせようとしましたけどね」
「俺の意思は汲み取ってくれないんだな・・・」
なんか最近、俺に対する扱いが悪くなっている気がするんだけど。
といっても、前までは俺に対して少しよそよそしい感じであったが、今ではお互いに軽口を言い合うほどに進展してきた。
人間、というか俺に対して慣れてきたんだろう。今のような旅の相棒的な感じも決して悪くはないしな。
「ありがとう、二人とも。そしたら早速出発しようか。アネモネ、馬車の準備を頼むよ」
「は、はい! 門扉の前に付けたらお呼びしますので、少しの間お待ちください!」
ノアが指示すると、アネモネは即座にソファーから立ち上がって部屋を出て行った。
現地まで馬車に乗せてくれるのはありがたい。
街の馬車乗り場はいつも混んでいる上に次の便が現れるのは不定期ため、1、2時間程の距離でも現地に到着するのは日が暮れる頃になる可能性も十分あるのだ。
「ドラグマには寄らないでそのまま現地に向かうけど、二人もそれでいいかな?」
「構いませんけど・・・あれ? お二人は街に戻られないんですか?」
ノアの提案に対し、サレンは首をかしげて不思議そうな顔で聞いた。
「・・・ああそうか! そういえば説明していなかったけど、この依頼は僕とアネモネも同行するよ」
「「ええ!?」」
思いもよらない回答に、本日二度目となる驚き声のデュエット。
てっきり現地まで送ってくれたら分かれる気でいたのに、まさか付いてくる気でいるとは思ってもいなかった。
「僕もアネモネもフィールドワークをしているから体力はあるし、複数属性の攻撃魔法と補助魔法も使える。それに回復薬や解毒薬の他に、ステータスを上げる薬なんかも持っている。なくなっても現地ですぐに調合出来るから、少なくとも二人の足を引っ張ることはないはずだ。あ、でも近接戦闘は苦手かな」
「うん、心配するだけ無駄だな。そんだけ出来ればむしろ頼もしすぎるわ」
「そうですね。ノアさん、前衛は私たちに任せてください。しっかりお守りいたします。」
さすがは国家錬金術師。そこらの魔法使い職の冒険者よりもスペックが高い。
回復薬やステータスアップの薬類は、『調合士』のスキルがなければ店で買うしかないため、それらを作成出来る人材は冒険に置いて非常に重宝される。
前衛寄りの俺にどちらも対応できるサレン、それから魔法とアイテムによる支援が可能なノアとアネモネと、彼らが加わることでパーティーの構成もさらにバランスが良くなる。
「みなさーん、お待たせしました!」
馬車を用意しに行ったアネモネが戻ってきたということは、出発の時間だ。
目指すはアレグラ大森林。
産業都市ドラグマの命運がかかったクエストの開始だ!




