魔法の実践
ティンレアの街を東に進んで行くと、ノレド山脈という大きな山にたどり着く。
このあたりは岩場になっており、草木が生えていないから動物も少なく、またそれを餌にしている魔物も大していないので、魔法の練習をするには最適の場所らしい。
街から歩くこと2時間。岩場にたどり着くと、今朝の講義の続きから始まった。
「この世界の魔法には『階梯』と呼ばれるランクがあり、第一階梯~第十階梯まで存在しています。第一~第二階梯までは、明かりをつける、物を運ぶ、飲み水を出すといった日常的に使う魔法が分類されていて、第三以降は攻撃魔法と補助魔法といった戦闘で使う魔法になっていきます。第7階梯までがこの世界で多く広まっている魔法。第八階梯以上は『古代の魔法』」や『失われた魔法』と呼ばれていて、これらの魔法を扱えるのは、勇者や伝説級の賢者クラスの魔導士、それから千年以上生きている亜人種しかいない、と語られています」
「つまり一般的な魔導書で覚えられるのは第七階梯までしかないのか・・・ちなみに、勇者候補である俺が第八階梯以上の魔法を使えるようになる方法ってあるの?」
「うーん・・・遺跡とか骨董品屋さんで古代の魔導書を探すとか、それらの使い手に教えてもらうとかしないと難しいですね。他の方法として、第八階梯以上と同程度のオリジナル魔法を編み出す、なんてことは出来ますよ」
「オリジナル魔法? 自分で新しい魔法を編み出すこともできるの?」
「出来ますよ。現に私の使う魔法はほとんどがオリジナル魔法です。この前使った『シャスティフォル』は八階梯、『ジャッジメント』は十階梯クラスに相当します」
彼女が今言った二つの魔法は、どれも簡単に地形を変える程の威力を持っている。
どちらもとてつもなく強力な魔法だった。確かに第八階梯に相当すると言われても過言ではない。
「オリジナル魔法の話は基本的な技能が身についてからにしましょう。まずは魔導書に書かれている魔法を実践です。雷と風、どちらかお好きな方を選んでください」
「よし、じゃあ雷からいくかな」
雷の魔導書を袋から取り出し、本を開いてみる。
まず初めの章には小難しそうな魔法の理論について記されており、それから第一階梯魔法、第二階梯魔法といった各クラスの魔法名、効果、詠唱文が細かく載っていた。
どれから始めればいいか悩むので、隣でひょこっと魔導書を眺めているサレン先生に渡すと、ページをパラパラとめくり始めた。
「・・・決めました。第三階梯の攻撃魔法『ライトニング』をやってみましょう」
本を返されたので、そのページを読んでみる。
えーと、なになに・・・?
『ライトニング』 分類:攻撃魔法 直線状に雷撃を放つ初級魔法。詠唱:「閃光よ嘶き走れ、彼の者を射抜く一条の雷火」
覚えられなくはないけど、咄嗟に打つ時とかだと嚙みそうになるな。
「魔法を使うにはまず魔力をコントロールするところからです。自分の体を魔力の貯蔵庫として、使う魔法に対して発動可能の最低ラインからどれくらいの魔力を引き出すかをイメージします。そこから使っていく魔力を調節して、魔法の威力を決めるというのが一連の流れです。この調節というのが、なかなか難しいんですよね・・・」
それはサレンの器用度が低いからでは? と言いかけたが講義に水を差すのは良くないので黙っていよう。
右手を突き出し、言われた通りに体から魔力を引き出していくイメージをして、魔力のコントロールを開始する。
魔道具店の時と同様、体中に流れている見えない力がどんどん手の先に集まっていく感じがしてきた。
手の先に集まってくる魔力が、明らかに『ライトニング』の発動に必要な魔力量のラインを越えているので、戻れ戻れと念じていく。
「そうそう! 良い感じに魔力の調節まで出来てますね! そしたら詠唱を唱えて魔法を発動しましょう!」
頭の中でサレンから教えてもらったイメージをしながら魔力の調整を行いつつ、詠唱を思い出して唱える。
別々の動作を同時進行で進めていくのはきついが、魔法習得のためにはやるしかない。
「せ、閃光よ嘶き走れ、彼の者を射抜く一条の雷火、『ライトニング』―――!」
詠唱を終えると手の先に集めた魔力が一気に放出され、青白い閃光がバチバチと音を立てて走り、俺と同じくらいの大きさの岩を破壊した。
「で、できた・・・!! おい見たかサレン!? 成功で良いんだよな!?」
「はい、ちゃんと成功していました! 今の感覚を忘れないためにも、あと数回やってみましょう!」
初魔法成功の感動の束の間、師の言うことに従って再びイメージをし、詠唱をして雷魔法を放つ。
五回ほど行った所で魔力のコントロールにも慣れてきた。
その後も数回練習した所で、サレンからストップが入り、一旦休憩に入る。
「一つ聞くけど、詠唱って魔法使うたびに言わなきゃいけないのか?」
手ごろな岩場に腰かけての休憩中、ふと疑問に感じたことを彼女に聞いた。
そんな俺の問いに対して、サレン先生は待っていましたかのようにニヤリと笑って言う。
「魔法の発動に詠唱は必ずしも必要・・・というわけではないのです。魔導書には理論や詠唱が必要と書かれていますが、魔法を使う上で本当に重要なことは想像力。発動に必要な魔力と使う魔法のイメージさえ出来れば無詠唱でも発動できます。詠唱というのは、口で唱えれば魔法を確実に発動させられる手段なのです。しかし、魔法は詠唱に備わった言霊によって効果が上昇するため、無詠唱がいいとも一概には言い切れません。そのため、詠唱を省略して魔法を発動するなんて方法もあったりします。次はそっちの練習に入りましょうか」
おおっと、ここで再びサレンの指導スイッチが入ったようだ。
彼女が岩場からひょいっと立ち上がったので、休憩タイムが終了する。
まだ魔力に余裕はあるけど、もう少し休みたかったなぁっと、口には出さず心の中で愚痴ることにした。
「今度は雷のイメージを頭に思い浮かべながら魔力をコントロールしてみてください。あっ、詠唱はどこで省略しても構いませんよ。ただし、最後に魔法名だけは忘れないでくださいね」
「わかった、やってみるよ」
魔力の調節は今まで通りに行って、先程まで練習していた雷魔法を頭の中で思い浮かべる。
雷・・・閃光を腕から放出させる感じで・・・。
体から魔力を引き出すイメージと雷魔法のイメージの両方を脳内で集中させる。
そして二つの事柄がマッチングした瞬間――詠唱を口から走らせる。
「射抜け雷火、『ライトニング』―――!!」
二つのイメージを連想するのに必死だった。
詠唱文のどこを省略するかは考えてなかったので、前半部分を丸々端折って咄嗟に出た最後の文面を叫び、手の先に集まる魔力を解放させた。
すると再び閃光が一直線に飛んでいき、目の前の岩を砕いた。
「・・・ふう、なんとか出来たな」
「すばらしい! エクセレントです! 今の感覚を忘れないためにもあと十本いってみましょうか! それが終わったら今度は風魔法の練習ですよぉー! はりきっていきましょうー!」
サレンが嬉々とした表情を見せると共にさらに練習メニューが追加された。
これも魔法を極めるためだ、辛抱しよう・・・。
こうしてサレンの指導の下、俺は雷と風の魔法を習得したのであった。




