(7)
⒎
「……お墓も立てられないで、ごめんね」
廃ビルの外に線香を立てて手を合わせる。
「…………」
ララも見様見真似で同じ動作をしてくれていた。
「私はお国柄、仏様とは縁がないものでね」
クラリッサはそう言いながら、近くで買ってきた花束を手向けてくれていた。
名前も知らない、屍人にされて消えてしまった小さな少女。
「…………」
「やっぱり自分で始末をつけた相手には、特に思う所があるかい?」
「まあ、ね。……いつかご両親と天国で再会できればいいんだけど」
そんなことを口にしてから、クラリッサにまたからかわれるかと思ったのだけれど。
「そうだね。……そのくらいの希望は、あの子供にはあってもいいだろうさ」
クラリッサはそう言って穏やかに笑ってくれていた。
「二人とも、そろそろ帰りましょう」
淡々とした口調でララが言う。
あれから一週間が経過して、僕とクラリッサの外傷はすっかり癒え、魔力が回復するのに合わせてララの身体も外見だけは修復されていった。
ただ魔術兵装は本体とは別に制作されたものであるため、自動的に修復されることはない。
今のララは感情表現に関しては目覚めた直後とほぼ変わらない状態になっているのである。
ただ記憶やなんかは別段失われているわけではないので、どのくらい時間がかかるかわからないけれど僕が頑張って破損した兵装を修理できるようになれば元通りになるはずだとクラリッサは言う。
「別に私は日常の活動に支障が無いので困る事はありませんが」
この一週間、ことあるごとにそんなふうに言うララに、僕らは笑って答える。
「そうは言っても僕達、もう笑ったり怒ったりした時のララを知っちゃってるからなあ」
「からかって恥ずかしがってるのをね、私達がまた見たいんだよ」
「……そうですか」
見た目の表情に変化は無いけれど、そう答えるララの声にはどこか温かい気持ちが混じっているように感じるのは、気のせいだろうか。
「ところで昇クン。キミは静から正式に稼業としての魔術師を引き継いでいないのだから、この先魔術の道でやっていくなら、近々開業届を出しておくべきだと思うんだ」
帰りの道を歩きながら、クラリッサが不思議なことを言い出した。
「開業届って……お役所じゃあるまいし……」
「ん? 私が眠ってる間に仕組みが変わってたらわからないが、魔術関係で収入得ている人間も沢山居るからね。この国の魔術師は税務署でもあらかた把握してるはずだよ」
「……ええぇ……初耳なんだけど」
「一般社会では認知されていなかろうが、国家は昔からそういうものも利用して政治も権力も維持しているからね。ちゃんと税金も取って来るぞ」
何だかすごく話が所帯じみてきてしまった。
「税務署……いやあ、だってまだ学生だしなあ」
「言っとくけど昇クン、もうキミは普通の社会人になるのは難しいんだぞ」
「……どういうこと?」
「人間の魔術師ならまだしも、私の吸血種の不死性を分け与えたんだ。見た目の歳もこの先ほぼ今のままだし、健康診断で血液検査も受けられない。学校出たって普通の就職なんてできやしないよ」
「……どうしよう」
人生プランを明確に立てていたわけじゃないけれど、そう言う意味でまで普通の人生はもう選べないとは。
「だ・か・ら。静の工房には魔術道具を作る設備は揃っていた。キミは静の遺産が無くなる前に、何とかしてそれで商売できるようになりなさい。魔導人形の修理はそのための修行にもなる」
「まさかいきなり手に職をつけなきゃならなくなるなんて……」
青ざめる僕の背中をバシバシと叩き、クラリッサは笑う。
「ふふ。頑張って腕利きの魔道具職人になって、私を養ってもらわないと」
「うっ」
「……あー、何だいその反応は。私の初めてを奪っておいて――」
「誤解を招く言い方はやめて!」
「ふふふ」
「昇さんが稼げるようになれば、食卓に並ぶメニューが豪勢になるということですね」
表情の変わらないまま、ララが物騒な事を言い始める。
「お、宮崎家で一番エンゲル係数を伸ばしている奴がやる気を出しているね」
「魔道具職人になる前に破産しそう……」
人間をやめた僕の前には、魔術師としての道が開こうとしている。
それはどうやったってもう普通の人間の人生には戻れやしなさそうだけど。
この道にはこの道の、行きつく先があるのだろう。
かつて天才と呼ばれた婆ちゃんが一人歩いたこの道を、何者でもなかった僕は今、三人で歩き出そうとしていた。




