(6)
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全ての魔術兵装を限界まで使用していたララが唯一使用可能だった武装は、ララを創造した当時の婆ちゃんが最初に武装として組み込んだもの。
そして再起動したばかりのララが、僕を救ってくれた時に使っていたものだ。
単純に拳から魔力そのものを放射する仕組で精霊魔術による副次効果もないため、休眠状態へ入る前に残っていた婆ちゃんの魔力を使った前回はまだしも、僕の魔力では本来役に立たないもののはずだった。
吸血種の身体になり魔力そのものが底上げされたおかげで、使用に堪えうるものにはなってくれたらしい。
「――ああ――そうか」
拳で圧縮された魔力が、異形となっていた司の全身を駆け巡り、その体組織を魔力飽和によって破壊しつくしていた。
ゆっくりと仰向けに倒れた司の顔を、魔術の灯りがわずかに照らす。
歪に変貌していた部分が剥がれ落ち、本来の人間の身体が露出していた。
「クラリッサ……!」
僕は一縷の希望をとクラリッサの顔を見たけれど、彼女は静かに首を振った。
すぐに、残った人の身体も端から灰のように崩れ始めていることに気が付いた。
「水に溶かした絵具から一つの色だけを再び取り出すと言うのはね。それこそ錬金術を極めでもしない限り不可能なんだよ。例え静がこの場に居ても救えはしない」
「司……」
焦点も定まっていない、もう何も見えていないであろう司の前に跪く。
「……」
――と。
司の口元が微かに動いた。
「…………か…………」
「……」
「……かあ……さ……」
ざあ、と。
それだけを言い残して、司は灰になった。
生きていた痕跡さえ残さずに、全て。
自分を置いて出て行った母親に、司の心は最後まで自分を救いを求めていたのだろうか。
空虚な静寂だけが、いつまでもその場を包んでいた。
地上に出ると、遠くの空がほんの少しだけ白み始めていた。
「…………」
「昇さん。……ご無事で」
ララがふらつく足取りで歩み寄ってくる。
「うん。……ありがとう、ララが居なかったら負けてた」
「了解しました。現時刻を以て戦闘終了と認識。戦闘状態を解除します」
「……ララ?」
ララの反応がどこか無機質な感じがして、思わずその顔を覗き込んでハッとなる。
「彼女の感情制御は埋め込まれた魔術兵装に利用されている精霊魔術の力と、彼女の疑似魂魄の正体である合成精霊が相互に干渉しあって生まれている。私達を逃がそうとした際、限界以上に酷使したことで魔術兵装が破損し、その機能が停止しているんだろう。故に今の彼女は感情の揺れ動きが無い」
クラリッサがララの目を覗き込みながら淡々と語った。
「そんな……!」
「落ち着きなよ。別に魔導人形そのものが機能停止したわけじゃないし、直せないとは言ってない」
「……そうか。良かった……」
「おいおい、だからって呑気に構えられちゃ困るぞ。直すのはキミなんだから」
安堵した傍から、クラリッサは意地の悪い笑みを浮かべて僕の背中を叩いた。
「え……?」
「言っただろう。私は精霊魔術は適性が殆どないんだ。静の孫の昇クンがやるしかないじゃないか」
「そうは言ったって……何をどうしたらいいか……」
「資料は静が残してくれている。私はそれをキミに伝え教える事ならできる。だからあとは、キミがやるんだよ。宮原静の後継として、魔導人形を受け継いだのなら」
婆ちゃんの後継として……か。
魔術師としての婆ちゃんの事を本人からは殆ど全く聞かされないままだったけれど、ララやクラリッサから伝え聞く天才魔術師の後姿は、朧気に見えてくるようになった気がする。
けれど僕には僕の、ある意味孤高の道を歩まざるを得なかった婆ちゃんには無い生き方がある。
「クラリッサ。ララを修理するために、これからも魔術知識を教えてほしい」
僕が改まって頭を下げると、
「……ふぅん」
予想外にやや不満気な生返事が返って来る。
「クラリッサ……?」
「確かに師匠としては弟子の頼みは聞かなければならないと言うのも……まあ、その、理屈ではあるが」
「……えっと……?」
「何と言うかだな。……頼み方が気に喰わない」
「あの……クラリッサ?」
困惑して顔を上げると、何だか珍しく余裕のない表情が目の前に在った。
「……生涯一度の吸血を使わせて、命を分け与えた私を、キミは、その、何だ。あくまで師匠として扱うのかと聞いているわけで」
「……………………」
しどろもどろになっているクラリッサを見て、ようやく言わんとしている事を理解した途端、こっちまで顔が熱くなってくる。
昔も婆ちゃん以外に友達付き合いも殆どなかったと言う話だったし、案外素はこっちに近いのかもしれない。
「あれか、用が済んだら都合の悪い話は知らんぷ――」
「ク、クラリッサ」
「は、はいっ?」
「……力を貸して。この先もずっと。ララも直す。魔術の勉強もする。それに僕じゃ婆ちゃんの代わりにはなれないけれど……隣に居て恥ずかしくないくらいには思って貰えるように、頑張るから」
僕の返事を聞いたクラリッサは、しばらく黙って僕の顔を覗き込んでいたけれど、
「仕方ないなあ。なら死ぬまでは付き合ってあげようか。……ま、二人とも死ねないんだけど」
やがて頬の赤いまま、いつもの少し意地の悪い笑みを浮かべてみせた。




