第六章 踏み出す(1)
⒈
「魔導人形……?」
ララの言葉に、僕もクラリッサも思わず目を見開いた、
「昇さんの治癒に回せる魔力が無い以上、私が殿を務めるのが最善です」
「ララ……何を……」
「むぅ……!」
ララはそのまま奥の壁まで司を押し込んで行く。
「ララ……!」
「私は元々命あるものではありません。バラバラになろうと粉々になろうと、昇さんが生き伸びて、いつかまた私を修復してくだされば良いのです」
魔術兵装の出力がまた上がり、焔が一段と大きくなる。
「魔導人形……キミは……」
「クラリッサ、治療魔術は使えますね?」
「……使えなくはないけど……私は元々自分の治癒に術は必要としなかったから、それほど治療魔術は得意ではないんだ。正直傷が深くて……」
「それでも、お願いします。……昇さんは、静が残してくれた希望なんです」
半ば意識が朦朧とするせいで、二人の会話がはっきり頭に入ってこない。
それでもララの声には、どこか悲壮な決意が籠められているいるように思えてならない。
「――わかった」
クラリッサが短く返事をして、再び僕の肩を担いで立ち上がった。
「――ッ!」
そのまま大きく跳躍して一気に距離を離して行く。
薄暗い空間の中、ララの持つ剣の赤い輝きがどんどん遠くなっていく。
「クラ……リッサ……!」
「喋るな! わかっている……!」
クラリッサが声を荒げた。
「……私も今の魔導人形の事は嫌いじゃあない。昔ほどの力があれば助けたい。……けれどあの司とか言う少年から感じた力はほぼ完全な吸血種のものだった。立川はおそらく私から抽出した力も自分より先に実験であの少年に組み込んでいる」
「……吸血種の……」
「君の学校で周囲の人間の認識を長期に渡って書き換え続けていたのは彼の魅了の魔眼だろう。……あれは謂わば、昔の私に近付こうとしている存在だ。封印から這い出て間もない、不完全の私では到底勝てない。今の魔導人形でも……同じだ」
「……僕は……それで……も……ゴポッ……!」
胃を通って、血が溢れ出す。
喉がたまらなく熱くなった。
「昇クン……! くそ、外まで行っていたら間に合わない……!」
クラリッサは階段を駆け上がり、そのまま電波塔の真下へ続く道を上がっていった。
「不慣れですまないが治癒術をかける。意識を強く持てよ、昇クン……!」
少し広い空間に出たクラリッサが僕を横たえて治癒魔術を始めたようだった。
でも、耐えがたいような寒さが身体を覆う様な感覚に、意識が蝕まれそうになる。
「ああもう……! 傷の治りが遅すぎる……! これじゃあ……」
「う……く……」
「くそっ! どうしてここに居るのが私なんだ……静だったらこのくらいきっとやってのけるのに……!」
クラリッサの声が震えている。
焦りと、歯痒さが混ぜこぜになってる感じだった。
「……ララのとこに……行かないと……」
「ああ、キミを治したらだ! 今やってる、やってるんだ……くそ!」
「まだ、これからなんだ……」
「何を言ってる……!」
「僕さ……婆ちゃんが死んだ時、悲しかったけど、でも婆ちゃんのこと、殆どわかってなかったんだ……。ララと……クラリッサに会って……やっと少し……見えてきてさ」
「いいから喋るな! ああくそ、出血が……!」
「婆ちゃんの日記にさ……名前は書いてなかったけど、ララとクラリッサのこと、書いてあったんだよ」
「……静が……魔導人形と……私を?」
「婆ちゃんは……自分はもう会えないから……二人を、未来に託し……たんだと思う。はぁっ……はぁっ……その願いを受け取ったのは、僕だ……ここで……手放したりなん……て……」
「…………おい、昇クン、おい!」
意識が薄れる。
「僕……は……」
「……」
「まだ……終われ……ない……!」
「…………昇クン」
クラリッサは、虚空へ向けて伸ばした僕の手を取った。
その目は幾分の迷いを残しつつも、やがて意を決したように口を開いた。
「……もう、人には戻れない……としてもかい?」
「え……」
「……」
それ以上クラリッサは何も言わなかった。
僕はそれでようやく彼女の言わんとしている事を理解する。
「……」
僕は無言で一度だけ、首を縦に振る。
クラリッサの手に、力が籠るのがわかった。
「私は……静にも、あの魔導人形にも恨まれてしまうだろうな」
「……違うよ……これは……僕の意思だ」




