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「っ……!」
暗闇を裂いて、赫い刃が横一線に薙ぎ払われた。
ざぁ、と。
水分を失った灰の塊が崩れるように、屍人は消滅した。
「……妙ですね」
ララは焔の剣を最小限の出力に絞りつつ、下へ続く深い暗闇を睨んだ。
「まだ近くはないけど、探査範囲にはもう一体移動する何かの反応がある」
直接攻撃に不向きな僕は、手持ちで数少ない『強力な魔力が無くとも一定の効果は期待できる』水精霊魔術で周辺の気配探知を担当しているのだけれど。
「先程から既に三体と交戦しています。……これでは既に報道されている失踪者の数を超えています」
「んー、あくまで報道は上無市で捜索願なんかが出たものが事件と結び付けて報道されるからね。外の人間が偶々上無市を訪れていた時に捕らえられた場合、その数にカウントされない可能性は高いんじゃないかなあ」
姿を消したまま僕の腕にしがみついているクラリッサが、緊張感のない口調でそう答えた。
「……じゃあ、あと何体居るのかって言う推測もアテにならないってことなんじゃないか」
「そこもちょっと私的には謎なところでさ。まあこの次くらいで打ち止めなら許容範囲なんだけど、吸血で屍人を作るのにもそれなりの魔力を消費するんだ。昔の私の力の一部を移植したからと言ってもあの時欠損した部位なんてほんの僅かなものなんだ。魔術師崩れが力を増したからと言って、この短期間に作れる数とは思えない」
クラリッサの懸念も気になるところではあったけれど、ここで引き返しても町の人達の被害が人知れず増えて行くだけだ。
「……どの道あの男がまだこれ以上犠牲者を増やしていくつもりなら、早いうちに決着をつけなければなりません」
ララはそう言うと、再び地下へ向かって階段を下りて行く。
「やる気があるのは結構だけどさ魔導人形。張り切り過ぎてガス欠しないでくれよ。私も人の事は言えないけれど、五十年前と違って物理的にも魔術的にも無理は利かないんだ」
「……わかっています」
「当時の婆ちゃんとまではいかなくても、せめて僕が一人前の魔術師だったらよかったんだろうけど……ごめん、ララ」
「静には静なりの考えがあったのでしょう。昇さんが気に病む事ではありません」
「あ、昇クン。私が吸血すれば多分魔力も身体能力も上がるぞ。オマケに長生きできる」
「……それ『番いを作るための吸血』って言ってたやつじゃないか……」
「今の私は吸血種としての力は殆ど失っているから、ちょっぴり頑丈になったり魔術適正が上がったりするけれど、完全な不死にはならないよ。どう? どう?」
「クラリッサ。昇さんを人外の道に引き込もうとするなら、あの男より先に貴女を滅ぼしますよ」
剣先を僕の肩口、丁度姿を隠したクラリッサの顔があるあたりへ向けてララがジト目で睨む。
「どうどう、魔導人形。それ熱そうだからやめようね」
「静は人の身であるにもかかわらず強い力を持ってしまったがために、その分周囲との人間関係にはあまり恵まれていませんでした。昇さんが人の身でなくなってしまったら、静よりも苦難の人生を歩む事になるでしょう。この事件を解決する事には意味はありますが、昇さんがこの先の人生全てを棒に振る選択をするくらいなら撤退して体制を整えれば良いだけの話です」
「……ま、そりゃそうか。悪い悪い昇クン、今のは忘れてくれ」
「え、ああ、うん」
ララと婆ちゃんが一緒過ごした時間は確か四年間くらいだったはずだ。
その僅かな期間でさえそんな風に映っていた婆ちゃんの歩んだ道の険しさと言うものは、如何ばかりであったのか。
「ともあれ、相手の性質上この戦いは頭を潰せば終わるものです。ここはヘタに時間をかけずに奥まで進みましょう」
ララはそう言って歩みを速め、僕らもそれに続いて行った。
――そして。
かつてクラリッサが婆ちゃんと対立した時に潜伏していた物資保管施設跡。
その最も深い暗闇の中に、それは在った。
「……なんだ、あれ……」
肉。
肉の塊としか表現のしようがない。
水槽の中で、何の肉とも、どこの部位ともわからない肉の塊が蠢いていた。
「――ああ昇君。今日あたり来るんじゃないかと思って準備をしていた所でね。君はやはり素直で良い子に育ってくれた。静さんの教育の賜物だな」
その奥から、見知った顔の男が姿を現す。
「……立川さん」
僕が名を呼んで睨むと、彼はゆっくりと、口の端を吊り上げた。




