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「……防空壕なんかとはまた違うんだな……上無市にこんなのがあるなんて知らなかった」
市の北側にある丘陵地帯へ続く森の中に、その入り口は在った。
「通信施設と指令所のバックアップとして作られたのが元々らしい。町中に戦時中あった高射学校や陸軍の駐留施設及び軍需工場は空襲で無くなってたから、ここに目を付けた奴はまあ先見の明があったのかもしれないね」
草木に半ば覆われた中に半開きになっている錆びた金属製の扉を小突きながら、クラリッサは笑った。
「これ、どのくらい奥行きがあるんだ?」
「しばらくは一本道で、脇にある部屋はちょっとした倉庫やら連絡員の待機所が何部屋か。百メートルほど進んだ先に上と下に分岐する階段がある。上は今現在ケータイのアンテナ基地局が建ってる丘陵の地上部直下に続いていて出口は埋められてるはず。本命は下だね。司令部の予備施設跡と広大な物資備蓄場跡がある。魔術的な何かをやるのに最適なのはそこさ」
「……五十年前に私と静がクラリッサと戦ったのも、その場所です」
そう言いながら、ララは軋む扉を強引に開け放った。
「さて、と」
クラリッサはポケットから何か白い砂のようなものが入った小瓶を取り出す。
「先日も話した通り、立川と言う魔術師は昇クンと魔導人形が来ることは予見しているだろうけど、クラリッサ=A=マグダウェルまで来ている事は予想していないと思われる。なので私はここから姿を隠して奴が出て来た時に奇襲をかけられるようにしておく」
そう言って小瓶の中身を自分の身体に振り掛けると、クラリッサの身体が透明になって行く。
「うわっ、どうなってるんだそれ」
「これ静の研究資料にあった光の精霊魔術を使った迷彩技法でね。魔術工房を擬装していたやつの簡易版みたいなものだよ。全員分作れればいきなり全員で奇襲かけるテもあったんだけど、まあ私は精霊魔術に関しては殆ど適性が無いから、せいぜいこのくらいの分量しか作れなかったんだけどね。材料も足りなかったし」
「……声だけするの、何かちょっとホラーだな……」
「お、そうかそうか」
「……?」
「……ふっ」
何だかクラリッサの声に含み笑いのようなものが混じってしたかと思うと、いきなり耳元に吐息を吹きかけられた。
「ふぁっ⁉」
「ぶははは! 今『ふぁっ⁉』って言ったぞ! 純情乙女か!」」
「ふ、ふざけてる場合か!」
「クラリッサ。こんな時にまで昇さんをからかっているなら焔の剣を貴女に使いますよ」
「冗談だってば魔導人形~。緊張ほぐしてあげてるだけなんだから」
「貴女と言う人は……」
「あとちなみにこれ魔術使ったら吹き飛んじゃうから途中で雑魚が出てきても私は手伝えないぞ。頑張って私を護ってくれたまえよ、だーりん?」
「その呼び方は誤解されるからやめてくれ! う、腕をからめるな!」
「……二人とも焔の剣で火傷させて差し上げましょうか」
かくして。
何とも緊張感の欠けるスタートで、潜入は始まったのである。




