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翌日、切り札である魔術回路解体用の術式を組み込んだ指輪の準備を終えた所で、クラリッサは居間に僕らを集めていた。
「さて。君達二人が昨晩イチャイチャしていた間に実は私は外で一仕事してきていてだね」
「ブフッ……!」
思わず飲んでいたお茶を噴きそうになってしまった。
「な、何もしていません!」
ララはララで真っ赤になってしまっている。
クラリッサは面白い遊び道具でも見つけたとばかりにニヤニヤしつつ身を乗り出す。
「えーほんとかなあ。その割にはだいぶ吹っ切れた顔してるじゃないか魔導人形」
「適当な事を言わないでください!」
「……何もしてないからホントに」
「うはは、なんだなんだー、甲斐性無しだなあ昇クン。草葉の陰で静も泣いてるぞ」
笑いながらバシバシと背中を叩いて来る。
酔っ払いのオッサンか。
「人の婆ちゃんを出歯亀みたいに言うんじゃないよ」
「まあ冗談はともかく――」
タチの悪い冗談である。
「――私は消息のわからない立川と言う魔術師が、上無市で我々から身を隠すならどこかと考えてアタリをつけていたんだ」
「上無市でって……上無市の外に逃げられる可能性だって高いんじゃないの?」
僕の素朴な疑問に、クラリッサはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。
「ああ~、天才静の血を引いて私に弟子入りまでしたクセにこんな初歩的な事もわからんとは~」
「……弟子入りったって一週間も経ってないんだぞ。簡単な術の構成くらいしか教わってないし」
「私が五十年前この地を滞在先に選んだのも、宮原や御山と言う魔術師の家系がこの地に住んでいたのも、とある共通の理由があるからだ。わかるかい?」
クラリッサはお茶を人啜りしつつ、僕の方をチラリと見る。
「ん……? ああ、確か霊脈とかって」
「その通り。霊脈だ」
霊脈と言うのは星の血管みたいなもので、その経路上では使用できる魔術の規模も大幅に上がる。それは霊脈の太い場所ではより顕著に出ると言う話だった。
「上無市は太平洋から日本海へ向けて通っているものと本州を縦断するものが交差することで国内でも屈指の霊場となっているんだよ」
「こんな旧い歴史もあるわけじゃない町なのに、そういう事情があるんだな」
「勿論京都なんかはここ以上の霊場なんだけど、あっちは昔から魔術絡みの勢力がいくつも根を張っているからね。見慣れない奴が何かをすれば古参の連中に袋叩きさ」
「上無市は穴場……みたいなものなんだな」
「魔術的に優れた土地である上無市がそんな風に半ば捨て置かれていたのは、地政学的に国造りの要衝になりにくかったせいで寺社仏閣と縁遠い土地になってしまったからとか、まあ諸説あるみたいだね。大昔に大妖をこの地で討伐したせいでこの土地に住む魔術の類を使う者を不幸にするなんて子供の怪談みたいな話もあるくらいだ」
「大妖って、妖怪の事だろう? 魔術と関係あるの?」
「土地が違えば呼称も違う。人ならざるものと言う括りでは大差ないさ。ちなみに私も静も一度だけ、この国の妖怪というものに会った事があるよ。黒猫の霊獣とか言ってたけど、若い女の姿にもなったっけ。アイツ強かったなー……アイツが居ればこの戦いも楽できそうなんだけどなあ。ま、居ない者をアテにしても仕方ないけど」
こういうノリで話をしているクラリッサの言う事はどこまで本当なのかわからないので、あまり真に受けても仕方ない。
「で、肝心の潜伏場所なんだけど、まあ一流でなくともそこそこ以上の魔術師なら間違いなく目を付けるであろう場所が一ケ所あってね。こっそり偵察に行ったんだけど、おそらくビンゴだ」
「それって、どこなんだ? これまでだって結構市内の色んな場所で屍人を倒してきただろう?」
「町中は何かと制約が多いからね。他人様に見せられない後ろめたい事をやるには不向きなんだよ。魔導人形には察しがつくんじゃないのかな」
そう言ってクラリッサはララの方へ視線を移す。
ララは少し考え、ややあって口を開いた。
「……かつて追われる身になったあなたが使っていた、旧日本軍施設跡」
「ご名答」
クラリッサは楽しそうに笑い、地図上の一点に赤い印をつけたのである。




