(10)
⒑
「――成程。帰ってきたら二人してお通夜のような空気だったのはそういう事ですか」
やや呆れたとも言える表情で、ララは僕らの顔を交互に見やる。
こんな状況でなければ感受性の成長を喜ぶべきとなのだけれど。
「ごめん。これが何なのか確かめないウチに身に着けたりしたから」
「うーーーーむ……」
クラリッサは僕の右手を手に取って、中指に嵌められた指輪をまじまじと見つめたりしていたかと思うと、
「ほっ!」
「いったい痛い痛い曲がる曲がる! やばい方に曲がるから!」
いきなり指輪を引っ張って強引に外そうとする。
「……やっぱりこりゃあダメだね。外せないわ。静のやつ、戦闘中に奪われないように保険のつもりで仕掛けたのかな。こりゃ参ったね、うはは」
「わかってるならやらないで……」
「五十年前に使ったものと同一であれば、起動して効果を果たせば崩壊します」
「使い切りとなると、いよいよそれを意地でも使わないといけなくなる。魔導人形なら私の時みたいに相打ち上等で零距離まで持ち込めるだろうけど、昇クンの身体の耐久性は普通の人間と殆ど変わらないからなあ……」
「相手の魔術回路を解体するこの術式は、相手と至近距離――できれば体内で起爆させるのが最大の効果を発揮します。遠距離では意味がありません」
「こりゃもう奇策の類は駄目だね」
問題がシンプルなだけに、どうにかして僕が零距離でこれを使用するしかないと言う事らしい。
「君だけなら向こうも油断して活路もあるかもしれないが、もうあちらも魔導人形が居る事を知っているから難しいか。……話で聞く限り、この時代での私の存在には気付いていない可能性が高いから、奇襲がハマればチャンスも作れるだろうけど」
クラリッサはあれこれと考えているようだったが、ララは特段いつもと変わりない様子で言った。
「私があの男の動きを止めればよいのでしょう?」
「いやぁ、簡単に言うけど魔導人形、私もそうだけど君も昔ほどの戦力ではないんだぞ。屍人だってまだ全滅させたわけじゃない。屍人を複数相手しながら吸血種を制圧するのは難しいぞ?」
「全ての魔術兵装を最大出力で短期戦に持ち込めば、不可能ではないと思われます」
その言葉に、クラリッサは少し驚いた様子を見せる。
「本気で言ってるのか?」
「……クラリッサ、貴女の奇襲とやらにも期待することにしますので」
「……君からそんな事を言われるとは思ってもみなかったけど、しかし……」
「ララ……?」
クラリッサの様子が少しおかしかったので、気になってララの顔を見る。
けれどララは特におかしな様子も無く、
「大丈夫です。静が残したその指輪、無駄撃ちにならないようにチャンスは私が作りますので」
そう笑って言うだけだった。
「昇さん、お腹が空きました。あの男と決着をつける日まで、魔力を少しでも多く溜めておく必要があります」
「え、ああ、うん」
「ですので、魔力リソースの補填材料となる食費は、しばらく覚悟しておいてください」
「ええ……」
思えば、この時ララが口にしたのは僕を不安にさせないための精一杯の冗談で。
彼女が見せた微笑みの裏には、それとは異なる覚悟が秘められていた事を、僕はまだ知らなかったのだ。




