(7)
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その晩、何も知らずに戻って来たクラリッサは僕からの報告を一通り聞き終えると、珍しく機嫌の悪い目つきになってお茶請けの煎餅を二枚いっぺんに齧り始めた。
「……不愉快。実に不愉快だ」
「えっと……その、今回のは僕が悪いんだ。知ってる顔だからって無警戒すぎ――」
「――そうじゃない!」
言葉を遮る様に大声を上げる。
予想よりも遥かに強い反応に、自分の落ち度と言うものが他に無かったか必死で思い起こし始めたのだが……。
「そのオヤジの話が本当なら、当時の私が戦闘で欠損した身体を何十年も隠し持っていただけにとどまらず、その一部を自分に移植したってことなんだぞ?」
クラリッサが身を乗り出して訴える。
「キモ過ぎるじゃないか!」
「え」
「考えてもみろ! 好きでもないどころか知りもしないオッサンに自分の身体の一部を後生大事に保管されて、どうやってか知らないがそれが今じゃそのオッサンの身体に移植されてるとか普通に考えて気持ち悪いだろ……!」
……どうやら僕の心配していた部分とは別の所にご立腹の様子である。
「ああ……そう言う……」
「……あんまり深刻に受け止めてなさそうだね」
ジト目で僕を睨むクラリッサ。
「いや、まあ……何と言いますか……」
「いいかい? 吸血種にとって自分の不死性を分け与えると言うのは特別なんだ。人を屍人に変える呪詛のほかには、本来伴侶を得るための吸血行動でしかそれは実現しないんだぞ?」
「ク、クラリッサ落ち着いて……」
「これが落ち着いていられるか⁉ 私の乙女心はどうしてくれる⁉」
「……」
……乙女心ときましたか。
「私は自分の不死性を譲渡するなら昇クンしかいないと決めていたのに人知れず先に奪われていただなんて……」
「嘆きながらしれっと昇さんの伴侶を名乗るのはやめてくださいクラリッサ。昇さんには昇さんの人生があります」
自分の湯飲みにお茶を注ぎ足しながら、ララがツッコミを入れている。
「なあ魔導人形、私が不死性を昇クンに分け与えればキミだってこの先主を失わなくて済むんだぞ?」
「もう少し詳しく話を聞きましょうか」
「せめて当人の目の前でそういう話はしないでくれ……」
この二人、水と油みたいな性格の割に案外色々噛み合っているのではないだろうか……。
「……まあ昇クンが誰のモノになるかはともかく、敵さん自ら尻尾を出してくれたのなら話は早い。今後はその男を探すことを最優先にすればいいわけだし」
クラリッサはそう言ったけれど、それだって容易な話ではない。
「ダメ元で試しに電話もかけてみたけれど電源を切ってあるみたいだよ」
「別に直接ボスキャラとアポイントとれなんて言ってないよ。屍人化させる呪詛は万全の状態の吸血種でも短期間に何度も使えるものじゃない。失踪者が殆ど増えていないことから屍人の数は確実に減っているはずだ。現状多くて残り三、四体だろう。おそらく手駒が残ってるうちにまた何か仕掛けてくるさ」
「……そこがこの事件を終わらせる最大のチャンスって事か」
僕はそう呟きながら、自分の右手を見つめる。
あの小さな子供の屍人にとどめを刺した自分の手。
今更自分の手が汚れる事に対して言い訳なんかできやしない。
魔術工房の鍵を開けたあの時から、引き返せない非日常の側に足を踏み入れたのだから。




