(3)
⒊
弁護士の立川さんから連絡が入ったのは翌日の昼過ぎの出来事である。
「昇さん。お出掛けをなさるのですか?」
上着を羽織って二階から降りた所でララに声をかけられる。
「ああ、うん。ちょっとそこまで」
「では、私も護衛致しますので――」
「ああー……大丈夫だよ。婆ちゃんの件で行政上の手続きとかの世話をしてくれていた弁護士さんと会うだけだからさ。婆ちゃんとも付き合いはそれなりに長かった人みたいだし、遠出するわけじゃないから」
正直、婆ちゃん亡き後遺産の相続手続きまで世話してくれた半ば後見人のような立川さんに「新しい同居人なので連れてきました」とか紹介できるタイミングではない。
何せ一般の人間から見ればララもクラリッサも「身元の保証も何も無い、どう見ても外国人の女子二人」である。
祖母を亡くしたばかりの高校生の家に転がり込んで謎の西欧系外国人女子が同居を始めると言うシチュエーションの自然な説明をするのには流石に無理がある。
クラリッサなら魅了の魔眼による認識の上書きで切り抜けられるかもしれないけれど、生憎今日は不在。
曰く「日雇いでいい仕事見つけたんだ。宿とご飯代まで世話になってる身でスマホ代まで集るワケにはいかないしねー」との事である。
ララは少し考えながら何かをブツブツと呟いていた様子だったけれど、
「……そうですか。では私はその間にお夕飯の食材の買い物に行ってきますので」
とりあえず納得したらしい。
「うん。じゃあ悪いけどお願いするよ」
「はい。いってらっしゃい、昇さん」
買い物をララにお願いして、僕は家を出た。
自宅を出て近くの通りに出ると、背後で控えめにクラクションが二回鳴るのが聴こえる。
振り向くと、端に寄せてハザードを点灯させた車が停まっていて、運転席で立川さんがひらひらと手を振っているのが見えた。
「立川さん、お疲れ様です」
「いやいや、今日は得意先一件寄って来ただけだからね。半分休日みたいなものさ。ま、乗りなよ」
「はい。失礼します」
僕を乗せた車は静かに走り出し、大通りへ出る。
「静さんから昇君への相続関係その他諸々、行政手続きやなんかも区切りがついたからね。仕事としては特段用件は無いんだけど、まあ君が新しい生活に慣れていくのを見届けるのも、世話になった静さんへのアフターサービスってやつかな。何か困ってる事とか無いかい?」
「あー……いえ、とりあえずは大丈夫です」
「そうか。それなら結構。安心できる」
……やはり言えない。
業務外の範疇まで心配してくれている人に、珍妙な同居人が二人も居る事は。
『――十四時になりました。上無FM、ニュースの時間です』
カーオーディオからは、地元のFM局の放送が流れている。
『夏から続く連続失踪事件ですが、警視庁と県警の合同による捜査にも係わらず依然として――』
「解決は難しいだろうなあ」
それはまあ、仕方のない事だ。
マスコミで報じられ、警視庁まで乗り出したこの事件。裏の事情を知らない人間には解決のしようがない。
犯人は吸血種であり、吸血種に襲われた者が屍人になる。
屍人は人を喰らってしまう。
これを止めるべく僕らが屍人を斃して行けば当然屍人も消滅して行くから、後には何も残らない。
これで警察が解決するのはどう考えても不可能なのだ。
「けど、きっとこんなのはいつまでも続きませんよ」
事情を知らない立川さんに「きっと僕らが解決します」とは言えない代わりに、僕はそんな曖昧な言葉を口にした。
けれど、独り言同然のつもりで言った僕の言葉に、立川さんは不思議な返事を返してきた。
「……そうか。流石、静さんの血を引いているだけはある……と言ったところかな」
「――……え?」
「静さんの魔術の才、君は受け継いでいるんだろう?」
「どうして……それを……」
「実は若い頃、少し齧っていたんだよ。だから彼女の往年の活躍も知っている。尤も、俺は才能がなくて早々に諦めたクチだがね」




