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「魔導人形の精神バランスの仕組み?」
食事の後、ララが入浴のために居間を離れたタイミングを見計らって、テレビを見ながらお茶を啜っているクラリッサに尋ねてみることにした。
「うん。ララの体内に埋め込んだ魔術兵装がそれと関係があるっていう話をこの前クラリッサがしてくれたのは覚えてるんだけどさ。もう少し原理と言うか……知っておきたいんだ」
「ふむ」
クラリッサは僕の目をじぃっと見つめたあと、口の端を少し吊り上げた。
「何か思い悩んでるみたいだね」
「うっ……よくわかったね」
僕のリアクションに、クラリッサはやや呆れ顔で言う。
「昇クンてさ、ババ抜きとか絶対弱いよね」
「……何で」
「キミはもう少し内面を顔に出さない術を身に着けてもいいと思んだよねえ。魔術師の世界なんてのは海千山千の策謀家の集団みたいなのがマウントの取り合いをしているようなものなんだからさ」
「め……面目ない」
昔から駆け引きみたいなものはどうにも苦手だったのだけれど、そういうものも将来的には身に付けなければならないみたいだ。
「まあ、静もそう言うのはあまり得手ではなかったから、血筋なのかもしれないな」
「そう……なんだ。はは」
「でも静は知恵も魔術の腕も並の魔術師じゃあちょっかい出せない強さだったからさ、同じに考えない方がいいよ」
「ぜ……善処します」
僕が苦笑して頬を掻くと、クラリッサはクックと喉の奥で笑った。
「で、魔術兵装があの魔導人形に及ぼしている『まるで人間のような精神性の発露』だけれど、昇クン、五種類のカラー全部憶えてるかい?」
「え……っと、赤・青・緑・白……あと紫か」
「そうだね。あれは火・水・風・天・地の精霊の力に対応していて、元々自然界の至る所に存在するものに魔道具としての形を与えて結晶化したものなんだ。それぞれ火の精霊は勇気や怒り、水の精霊は安寧・冷静といった具合に、様々な精神の象徴でもある。静は魔導人形の魂に複数の精霊を合成した『疑似魂魄』を使用しているのだけれど、個別の精霊を結晶化した魔術兵装を埋め込むことで体内に保有する精霊力の絶対量が増え、結果として同じ精霊力の塊である疑似魂魄に影響が起きている……と言うのが私なりの見解だよ」
「……何だか小難しい話になって来たけれど、精霊の力の余剰分が感情表現を可能にしている……みたいなもの?」
「まあそんな感じかな。とは言え、あの兵装は五十年前の私との戦いでは試作品みたいなものだったみたいで焔の剣のやつしか使っていなかったし、そのせいか魔導人形に感情の発露のようなものは見られなかったからね。それ以上は何とも」
「そっか……。けど、凡その原理はわかってきたよ。つまりあの魔術兵装と同じ精霊の力の結晶を作れれば、戦う力である必要は無いって事だよね?」
僕の言葉にクラリッサは一瞬きょとんとした顔をし、次の瞬間急に噴き出した。
「ぶはは! 昇クン、まさかあれと同じ――いや、あれから戦闘に使う機能を排除したものを作りたいって話かい?」
「笑わないでよ……まあ……実際できるかどうかなんて知らないけどさ……」
「んふふ、いやいや。理論上は可能だろうさ。けど魔導人形にしても魔術兵装にしても、稀代の天才・宮原静の精霊魔術師としての能力と魔道具職人としての技術の粋を集めた代物なんだ。昇クンがヨボヨボになるまで頑張っても、辿り着けるかどうかわからないよ?」
「うっ……。け、けど……婆ちゃんは元々ララを戦うためじゃなく、人間の友達になれる存在として作ったはずなんだ。だから武器が必要なくなった時にも、それを手放しても心を失わなくていいようにしてあげたいんだよ」
クラリッサは一瞬遠い目をして苦笑し、残っていたお茶を飲み干して席を立つ。
「いいなあ。そこまで思って貰えるっていうのは、ちょっと羨ましいね」
「え」
「あ、そうだ」
クラリッサは意味深な笑みを浮かべながら僕の耳元で小さく囁く。
「私が昇クンから契りの吸血をすれば、ヨボヨボになる心配をせずに魔術の研鑽を積むこともできるんだけど、どう?」
最初言葉の意味がよくわからずにいたけれど、少し前にクラリッサが話していた吸血行動に関する話を思い出した僕は一瞬で顔が熱くなるのがわかった。
「ば……馬鹿か! 自分で言ってる事の意味くらい考えてくれ!」
「ぶはは! 乙女か!」
大笑いしながら背中をバシバシ叩いて来る。
屍人化させる「呪詛を撃ち込む吸血」と「番いをつくるために、自身の命の一部を与える吸血」。
クラリッサが口にしたのは後者の吸血であり――
「そういうのは……冗談で口にすることじゃないだろう。何よりクラリッサにとって大事なことになるんだから」
「ふふふ。ゴメンゴメン」
ひらひらと手を振って居間を出て行くクラリッサ。
廊下へ出る間際、一度立ち止まってこちらへ振り向き、悪戯っぽく笑って言った。
「でも私はね。冗談は言うけれど、嘘は言わないつもりだよ」
「な……⁉」
「はい激写ァ! うははー! めっちゃ照れてやんのー! じゃあねおやすみー!」
呆気にとられた僕の間抜け面をスマホで撮影し、大笑いしながら自室へと消えて行った。
「……何だったんだ一体……」
好き放題からかわれた挙句に取り残された僕の頭の中では、しばらくの間クラリッサの言った言葉がぐるぐると回り続けていた。
……クラリッサの言葉の真意は、一体どこにあるんだろうか……。




