第四章 彼女が残したもの(1)
第四章 彼女が残したもの
⒈
暗闇を、赤熱した刃が斬り裂いた。
その閃きは、人ならざるもの――屍人となった男を容易く両断する。
そして崩れ行く身体は地に落ちるよりも早く、ララの手にした剣の焔に捲かれて蒸発していった。
町外れの廃工場。
僕らはあれから何度目かの、屍人討伐の日課をこなしにきていた。
「……対象の浄化を確認しました」
ララは剣を降ろして状況を報告したけれど、僕は緊張を解かずに詠唱を開始する。
『――疎は水面、疎は鏡。見えざるものは音に聴き、音無きものは映し出す――』
「……昇さん?」
目を閉じて、暗闇に向かって観測領域を広げていく。
水面に見立てて薄く張った魔力に何かがかすかに触れ、波紋が広がるのがわかった。
「――……後ろ! 一体来る!」
「ふぅっ!」
僕の声から間髪置かず、ララは振り向かずに背後に向かって一刀を薙ぎ払う。
「……ガッ……!」
一瞬その焔に照らし出された屍人が、短い断末魔を上げて灰になって行った。
「おー、上出来上出来」
クラリッサが上機嫌で手を叩く。
「昇クンが補助系の役割をきちっとこなせれば、魔導人形はその分直接的な戦闘行動にリソースを割けるからね。そうすれば、多少なりとも昔の状態に近い戦いができるようになるはずだ」
クラリッサによれば、ララに埋め込まれた高等な魔術兵装とパスを繋いでいる僕は、本来まだ扱えないレベルの力を多少は行使できるのだと言う。
ただし出力は使用者に依存するため、戦闘に適した身体能力を持つララが扱えば必殺級の長剣でも、僕では先日のように短剣サイズが関の山だし素人丸出しの格闘術であまり役に立つとも思えない。
クラリッサに教わっているのは、そう言う部分にあまり影響されず、一定の効果が期待できるものでララの立ち回りを補助する方法だ。
曰く「流石に私でも魔術の世界に足を踏み込んだばかりのキミを、一朝一夕で当時の静と同じレベルに引き上げるなんてのは無理な話だからさ」との事。
「……お疲れさまでした、昇さん」
「ララもお疲れ様。無事で何より。……僕が駆け出しのせいで、最終的にはララ頼みになっちゃって申し訳ないけど」
「いえ。そんなことはありません。それに、直接的な戦闘は私の役割です。私は、そのように作られたのですから」
「……」
戦闘用。
本当にそれでいいのだろうか。
ララは特に悲しむでも憤るでもなく淡々とそう口にしたのだけれど、元々は婆ちゃんだって、人間の友人となるべき存在として魔導人形を作ったはずではなかったか。
ララが戦う力を少しずつ取り戻していくにつれて、僕の心の中に小さな違和感のようなものが芽生え始めていた。




