(8)
⒏
「ララ、こんな所で何をしてるんだ?」
「不本意ながら、クラリッサの要請で少々」
心底不本意そうな顔でララが答える。
「これだよ、これ」
先程僕に見せた司に関する書類をひらひらとやりながらクラリッサ。
「昇さんのクラスメイトの住所欄に記載されている家が、この近くにあります」
「司の……」
「まあとりあえず四の五の言うより現物を見た方が状況の把握もしやすいだろうし。案内してよ、魔導人形」
「昇さん、それでよろしいですか?」
「……頼む」
ララが何故僕に確認をとったのか。
その表情の硬さと声色から、少なくともあまり楽観視できる展開が待っていないであろう事は何となく察しがついた。
「――これはこれは」
ララが足を止めた場所の目の前に建つ家を見上げて、クラリッサは口の端を吊り上げた。
「ここで……間違いないのか」
「住所表記との相違は見られません。表札の名義も合致していると判断します」
「……」
クラリッサが楽しそうにしているのは感心できないものの、彼女が興味を強く懐くほどの要素は確かにあった。
「空き家に……見えるな」
その家は雨戸も全て閉まっていて、少なくとも明かりの類はどこにも確認できない。
もう辺りも暗くなっているし、周辺の家々からは生活の光が漏れ出ている。
「少なくともここ最近まで使ってました……とか言う感じには見えないね」
クラリッサがそう指摘したのは、庭だけでなく玄関付近にも雑草が生い茂って、膝より高い位置まで伸びている事などからだろう。
「……あいつ……ここから通ってたんじゃないのか……?」
「ねえねえ昇クン、その彼の連絡先は知らないのかい?」
「え……? ああそうか、どうして気付かなかったんだ……」
そう言われて慌ててスマホを取り出し、電話をかけて――
「……あれ?」
僕は一瞬、自分の目を疑った。
「司の名前が……アドレス帳に……無い?」
あるべきものだと思っていたものが、煙のように無くなっている。
「おかしいな……アイツとは遊びに行ったりして電話かけたことだって何度も……」
「発着信の履歴と言うものが見られるはずだろう?」
「あ、ああ、うん……そう、そのはず……なんだ」
「……」
「そのはず……なのに」
目を皿にして画面を凝視しても、結果は変わらなかった。
電話の発信履歴などは、スマホを持たなかった婆ちゃんに連絡をとるために自宅にかけたものくらいで、着信もそれに弁護士の立川さんが一、二度あるくらいのもの。それ以外の番号にかけた形跡なく、SNSのやりとりすら、ただの一件も見つける事ができなかったのだ。
「どういうことなんだよ……」
「なるほど。こいつは思ったよりもずっと根が深い」
「……何がおかしいのですか、クラリッサ。昇さんの学友の方の安否がわからないと言う時に」
「私は今回の事件の主犯は快楽主義で頭のイカれた流れ者の吸血種だって思っていたけど、そんなヤツが昇クンの意識の中に『普段から連絡を取り合っている間柄』だなんて細かい指定の必要な虚構の認識を植え付ける理由があるとは思えないからね」
「……それは……つまり……」
「無差別に町の人間を屍人に変えているのとは別に、ピンポイントで昇クンに対しても何かしらの目的を持って近付いていた、とも考えられる」
クラリッサは喉の奥で笑って、僕とララの顔を見渡しながら言った。
それはこの先の調査に立ち込める暗雲を予感させるには充分な一言だった。
「この少年が無事かどうかよりも……もう『そもそも何者なのか』を調べる必要があるってことさ」




