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「よーっし生徒諸君、今日も全員何事も無く授業終わったな! じゃあ解散だ、今物騒だから気を付けて帰るんだぞー」
翌日。
昨日に引き続き臨時担任ことクラリッサがまたしても五秒でホームルームを終わらせる。
魔眼とも言うべき能力による認識の上書きを使って飛び入りで乱入した身とは言え、今日は司のやつが欠席だと言うのに全員とか言っちゃってるし。
適当先生にも程がある。
「さあ昇クン、一緒に帰ろうすぐ帰ろう」
流れるような動きで近付いて来たクラリッサが、席を立った僕の背中をぐいぐい押して歩き出す。
「またそうやって人前でくっつこうとするのやめなって……周りの視線がキツイんだから」
女子達からは呆れた眼差しが、男子達からは殺気を含んだ視線が飛んできて居心地悪いことこの上ない。
「おんやー? そりゃ人前でなけりゃあいいってコトかい?」
「そ、そういう話じゃないだろ!」
「んっふふ。はいはいわかったから行くよん」
教室から僕を押し出しつつ、クラリッサは続ける。
「今日はキミがあの魔導人形を起動したって所へ行こうと思ってね」
「婆ちゃんの魔術工房に……?」
「今日からキミの魔術の家庭教師をやるとは言っても、教科書は必要だろう?」
「教科書って……婆ちゃんの研究資料のことか」
言われてみればクラリッサは工房へ連れて行ったことが無い。
あの場所にあるものの殆どは予備知識無しの僕には到底理解できるものではないように思えたけれど、同じ魔術師でもあったクラリッサなら話は別だろう。
何某か有用なものを見つけてくれるなら、今追っている事件で発生するリスクを軽減できるものも習得できるかもしれない。
「そそ。優秀な先生だって、教科書無しじゃあ教えるべきことが決まらないからね」
「……優秀な先生はホームルーム終わった瞬間生徒を拉致して帰ったりしないと思うけど」
「それはそれ、これはこれだよ、ダーリン」
「その呼び方は誤解されるからほんとやめて。……って言うかホームルーム以外の時間何してるの? 全然教師らしく振舞ってるとこ見た事無いんだけど」
「一応これでも気まぐれに授業はやってみたりしてるんだよ。まあ本命の目的は昇クンの身辺警護と校内の調査だね」
「……それ、別に偽教師じゃなくてもできたのでは」
「んー、確かにカタコト日本語で美少女転校生ごっこするのも楽しそうだったけれど……」
……今楽しそうって言ったぞ、この人。
「けど結果的に、教師ってていで潜り込んで正解だったよ」
「授業受けなくて楽でいいとか、そういう話でしょ」
「偽物とは言え教師の立場でなければ発見が遅くなっていた綻びがね、見つかったかもしれないのさ」
クラリッサの口調が普段の冗談めかしたものから、何だか興味深いものを見つけたようなものに変わった気がした。
「……何の話?」
怪訝に思った僕がクラリッサの方を見ると、彼女は僕の首を片腕で抱え込むようにして小声で言った。
「昇クン。キミが平穏だと思っていたこの学校、多分侵食されているぞ」
「侵食って……何に?」
「非日常……いや、日常を装った非日常……と言うべきかな。キミが当たり前だと思っていた光景は、とっくに当たり前のふりをした別のものとすり替わっていたかもしれない」
「それって……一体……」
「んー。それは工房へ寄った後、一つだけ裏取りをしてから話そうか」
「お、おいちょっと……」
クラリッサはニヤリと不敵な笑みを浮かべるだけで、その件についてはそれ以上話してくれなかった。




