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色々な誤解をクラス中に好き放題植え付けまくったクラリッサと自宅に戻った僕が玄関を開けると、二階からぱたぱたとララが駆け下りてきたところだった。
「ただいま、ララ」
「昇さん、おかえりな――」
笑顔で言いかけたララの表情が凍り付く。
「……何故今朝出て行ったクラリッサが昇さんと一緒に帰って来るのですか」
「うわぁ、すっごい嫌そうな顔」
「嫌そうではなく、事実嫌なのですが」
「いいねえ。中々人間らしい表情が板について来たじゃないか、魔導人形」
真顔のララと、おちょくるようなクラリッサの視線が空中で火花を散らしている。
家の玄関で人智を超えた二人の竜虎対決はやめてほしい。
「……って言うか、あまりに自然についてきたから僕も疑問に思わなかったんだけど、クラリッサ家帰らなくていいの?」
「乙女の秘密を殊更探ろうとするのは感心しないなあ」
「そう言う類の話じゃないだろ……。家だよ家。今後もこの件について協力してあたる以上、所在なりなんなり把握しておかないとさ」
「無いんだなあ、これが」
「……は?」
「クラリッサ=A=マグダウェル、住所不定です☆」
舌をペロリと出し、片目をバチンと瞑りながらクラリッサ。
「……いや……そんな台詞を無理矢理ちょっと可愛い感じで言われても」
「いやぁ、静の奴に封印されてたのは戦前の陸軍の地下施設跡で今じゃ水も電気もないし、当時人間のフリしてた時に使ってたアパートだってもうとっくに別の建物建ってたしさあ。日雇いバイトで日銭を稼ぎ、ネカフェとカプセルホテルを転々としてきたわけですよ」
「世知辛さが微妙に生々しい」
かつて十数名の魔術師を返り討ちにして界隈に名を轟かせた吸血種も、非正規雇用で生きるのに苦労する時代らしい。
「私としては別段クラリッサが路頭に迷おうと一向に構いませんが」
「うわぁ、真顔で言ったぞこの子」
「当たり前です」
ララに塩対応をされたクラリッサが、わざとらしく僕にしなだれかかって来る。
「そういうワケでさあ……当面の活動拠点を提供してくれる親切な家主さんとか居ないもんかなあとか思ったりしているわけですよ」
「み……耳元で小声で言うんじゃない!」
「しばらくここに寝泊まりさせて欲しいなあ、ダーリ――」
「――だあああわかったわかったから! 客間自由に使っていいから!」
この場に於いて不穏な展開を呼び起こしかねない単語が聞こえそうになったため、思わず承諾をしてしまった。
「やったー! これで利用時間で追い出される生活ともおさらばだー!」
ガッツポーズで跳びはねるクラリッサ。喜びの内容も微妙に生々しい。
「はあ……まあ仕方ないか」
「仕方なくありません」
一息ついたその瞬間、ララに二の腕を抓られた。
ララはこれでも戦闘時とは力加減を変えているのだろうけれど、人間の女の子の握力とは比較にならない、大人にペンチで掴まれたのではないかと言うほどのパワーである。
「いててててててててやばいやばい千切れる千切れる!」
十秒ほどしてようやく放してもらったものの、抓られた部分は真っ赤になっている。……これ後から内出血とかしないよな。
「昇さん、客間は当初私に使ってよいと仰ったはずではないですか」
ジト目でララが問い詰めてくる。何の修羅場だ、これは。
「いや……けどララ、君結局僕の部屋にしか居ないでしょ」
「そ、それは……まあ、そうですが」
「お、なら昇クンの部屋と客間代わってあげてもいいぞ?」
「結 構 で す。……寧ろ貴女は客間から出ないで下さい。そして昇さんの部屋に勝手に侵入しないで下さい」
「うおっほほ、一丁前にやきもちやいてるぞこの魔導人形! 静が観たら大喜びだろうな!」
「やきもちなどやいていません!」
「ぶはは、ムキになって否定するのもそれっぽくていいねえ!」
「……夕食作ってるから、なるべく物壊さないようにしてくれよ……」
ガッチリ組み合って超人対決が始まってしまったので、フィジカル的にほぼ一般人の僕には止めようがない。
家が無事である事を祈りつつ、台所に向かうのだった。




