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辿り着いた場所は、しばらく前に建設途中で不動産屋が倒産したとかで、放置されている作りかけの、テナントビルだった。
建物の外には工事の途中だったことを物語る足場や防護ネットがかかったままになっていて、中を窺う事はできない。
「ここに……?」
「屍人は陽の出ている場所では活動が殆ど制限されるからね。日中は暗い場所に潜んでいるんだよ。郊外ならば森の奥や洞窟。町中なら廃墟や下水道なんかが多いかな。いやあ、下水道じゃなくて良かった良かった」
からからと、緊張感なく笑ってクラリッサは言う。
「この距離まで来ると、僅かですが直接感じる事ができます」
ララが上を見上げながら小さく呟く。
「さて、じゃあ二人とも頑張ってね」
「……は?」
一瞬何を言っているのか理解できなかった僕が振り向くと、クラリッサは見た目だけは無邪気な笑みを浮かべていた。
「ゴーゴー!」
「その口ぶりからすると……クラリッサは参加しないってこと?」
「……何だいその捨てられた小動物みたいな顔は。これはキミが比較的安全な部類の実戦で、魔導人形と一緒に戦う経験を積む貴重な機会なんだ。私が力を貸したら意味がないだろう? 今回私は後ろで見てるだけさ」
「いやまあ……確かに」
そう言われるとぐうの音も出ない。
一度目は為すすべなく殺されそうだった所をララに助けられ、一人で行動中に襲われた二度目は反撃を一旦は成功させたものの力不足で追い詰められ、結局クラリッサに助けられている。
けれど今日はララも居るし、魔術兵装の使い方も知識だけは頭に入ってる。
これは確かに、実戦経験を積むチャンスなのだ。
「……わかった。何とかやってみるよ」
「んふふ。まあホントに死んだら困るから『助けてクラリッサお姉ちゃ~ん』て泣きながら言えば助力はしてあげるから」
「何だよそれ……」
「宿敵だった静の忘れ形見を助けるなら、私にも楽しみがあって然るべきだろう?」
「ほんといい性格してるなあ」
「しれっと昇さんの姉になろうとしないでください、クラリッサ」
これにはさしものララもツッコミを入れる始末である。
ララは防護ネットの開いている場所から中へ入りつつ、振り向きざまに言い放った。
「……昇さんと会ったのは私の方が早いのですから、それで言うなら私の方が姉です」
「……」
「……」
『……そこ⁉』
僕とクラリッサのツッコミが、綺麗に重なった。
完成前に廃墟となった薄暗い建物内部は、内装もほとんど手つかずでそこらじゅうが剥き出しのコンクリートのままだ。
「この階にも居ないようですね」
内部を慎重に、くまなく歩いて屍人を探していく探索。
現時点で一階と二階は網羅したけれど、今の所遭遇戦には至っていない。
「……ふう」
階段部分まで戻って来たところで一息つく。
外は晩秋の少し肌寒いくらいの陽気だっていうのに、気付けば少し汗ばんでいることに気付く。
室温が高いわけではない。
これはきっと、極度の緊張感が持続している事からくるものだ。
「だいぶ気分がまいってるみたいだねえ」
クラリッサがからかうように、こちらの顔を覗き込んでニヤニヤしている。
「ドアとかが取り付けられる前に工事が止まったみたいだから移動する分には楽だけど、物陰から急に襲ってこられたらと思うと、さ……」
「いいねえ。静のやつにはなかった初々しさが実にいい」
「え?」
「あいつはせっかく私が大掛かりな魔術で拵えた迷宮の魔術的構造を、片っ端から解析して笑顔で解体していくような女だぞ。風情も何もあったもんじゃない」
「……何か、僕が知ってる婆ちゃんと随分印象が違うんだけど」
穏やかな笑顔が印象的な人だったけど、そんなおっかない笑顔の事ではない。
「そりゃあ、娘時代と大人になってからじゃあ変りもするだろうさ。家庭を築いたりしたのであれば尚更ね」
「他に、婆ちゃんについて印象に残ってることってある?」
「そういうのは私じゃなくて、年中一緒に居た魔導人形の方が沢山聞かせてくれるんじゃないのかい?」
クラリッサの言葉に、ララは少しの間の後、
「……そういうお話はまた食事の時にでも。今は目的の遂行を優先すべきと考えます」
正論でクギを刺されてしまった。
クラリッサは舌をペロリと出し、僕も苦笑いすることになったけれど、そんなほんの一時解けた緊張感も、すぐにそれ以上のものによって上書きされることになった。
先頭を歩くララが僕らの動きを手で制したのは、五階まで上がった時だった。
「……お気を付けください……」
「これはこれは」
それまで感じられなかった特有の臭いが、鼻を衝く。
「これ……血の臭い、か……?」
嫌な予感がした。




