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「凄いなクラリッサ」
「んふふ、もっと褒めてもいいんだよ。……とは言え、私の基礎属性は水だからね。想定していたよりも精度が低くてさ。方角は掴めるけど距離まではわからないのよ」
「うーん……確かにそれだと、よっぽど至近距離まで行かないと変化がわからないか」
「そこでポンコツから立ち直ったそこの魔導人形の出番なワケ」
「だ……誰がポンコツですか」
「ま、まあまあ」
クラリッサをジト目で睨むララを宥める。
こんな場所で人間離れした喧嘩なんかをさせるわけにはいかない。
「クラリッサ、それでララの出番て言うのは?」
「キミが魔導人形に埋め込んだ兵装、かつて静が使っていたものと同種だとすれば五種類あったんじゃないかな?」
「ああ、うん」
ララに埋め込んだ五種類の鉱石には、魔術兵装としての起動時確かにそれぞれ固有の詠唱を必要としている。
「あの兵装は火・水・風・天・地の精霊魔術と深く結びついているんだ」
「精霊魔術……?」
「……キミは本当に魔術について殆ど教えを受けていなんだな。魔導人形の兵装と魔術的なパスが繋がっていたからとは言え、キミも昨晩屍人相手に使っただろうに」
「成程……」
「静のやつはまあ憎たらしい事に何でも器用にこなしていたけれど、彼女本来の得意分野は精霊魔術だったからね。そこに彼女の研究対象の一つでもあった錬金術から引っ張って来た知識をハイブリッドして作ったのが、そこの魔導人形なんだよ」
「随分詳しいんだな、クラリッサは」
僕がそう言うと、クラリッサの頬が俄かに引き攣りだす。
「だってアイツ、戦闘中に敵だった私に滅茶苦茶自慢してきたんだぞ」
「……」
クラリッサの語る若い頃の婆ちゃんは、どうも僕が知っている婆ちゃんと比べてもだいぶはっちゃけていたような気がする。
「ともあれそういう背景もあって、その魔導人形には魔術属性の得意不得意無く術の効果を最大限に発揮できる性能があるんだよ。まあ昇クンが魔術師初心者みたいなものだから、おそらく当時の性能にはまだまだ及ばないとは思うけれど。……魔導人形、これに触れて。スマホ壊すなよ」
「わ、わかっています」
ララが慎重に画面に触れると、浮き出ている刻印が一瞬点滅し、アプリ内の表示に若干の変化が発生する。
「矢印の隣に数字……これ、距離もわかるようになったってことか」
「そういうこと。それじゃあ早速、行ってみようか」
僕らはクラリッサに続いて、矢印の指す方角へ向けて移動を開始した。
「……って、これよく見たら小さい矢印が他にもあるぞ」
「そりゃあ、この上無市で失踪してる人間はもう十人を超えてるからね。昇クンが現場に居たケースだけでも二体、私もキミと会う前に二体ほど始末しているけれど、それでもまだ半数満たない数だ。しかも放っておけばまだまだ増えるぞ」
「けどさ、吸血種も生存手段としては特段屍人を作る必要は無いとか言ってなかった? 上無市で活動してる奴は、何でこんなに屍人を増やすんだろう?」
「ふぅむ。やはり根本的な所を理解した方が良さそうだなキミは。まあまだ時間はある。それまで改めて吸血行動に関するレクチャーをしておこうか」
「頼むよ」
「吸血種の吸血行動には二種類あってね。今回のケースは呪詛を撃ち込み屍人と言う眷属を作るものだね。それらが別の生き物を襲って捕食すると、その生命力は吸血種に集められるんだよ。けれど吸血種には元々人間なんかより遥かに強い生命力と魔術適正が備わっているからね。のんびり暮らしたいならそんな事をする必要性が無いんだ」
「それを敢えてやるっていう事は、やっぱり力を増してもっと好き放題したいって事なのか?」
「単純に力を欲している……と言うのもまあ、間違いじゃあないと思うけれどね」
クラリッサは一旦そこで言葉を区切り、含みのある笑みを浮かべながら耳元で囁くように言った。
「気持ちいいのさ」
「……いいっ⁉」
予想外の言葉に、思わず声が裏返ってしまった。
「あっはっは! 初心だねえ」
「か、からかわないでくれよ……」
「クラリッサ。昇さんを質の悪い冗談で汚染するのはやめてください」
「いやいや、これは本当の話だよ。それに吸血種に限らず、生物に常軌を逸した行動を促すのは快楽である場合が実に多い。上無市を騒がせている元凶は、吸血時の快楽に憑りつかれていると言っていいと思うよ」
「人間に恨みがあるとか、そういうのじゃあないのか」
「快楽主義者を甘く見ない方がいいぞ、昇クン」
「……え?」
「恨みつらみは銃弾のようなものだ。構図さえ把握できれば次の行動を予測しやすい。だけど快楽と欲求のままに起こされる行動は予測の上を行くからね。結局活動を行き詰まらせるためには、迅速に虱潰しで手駒を潰すしかないんだよ」
「……よく、わかった」
差し手が読めない相手との攻防。
将棋やチェスなら駒を潰されてもば最後に勝てばいいけれど、現実では人が死ぬ。
「今は一体でも、屍人を減らさなきゃ」
「正解だよ昇クン。では行こうか」
満足そうに笑って、クラリッサは歩き出す。
「……そう言えばクラリッサ。吸血の目的は二つあるって話だった気がするけど、もう一つって何なんだ?」
「ん? ああ、気になるかい?」
「いや、そりゃあ、まあ」
僕がそう答えると、クラリッサはまた僕の耳元に顔を寄せて、悪戯っぽく囁いた。
「番いを作るためさ。呪詛による屍人化ではなく、人間に自らの命の一部を分け与えることで悠久の時を共に生きるために」
「――……」
「んー? また赤くなってるぞ昇クン。何なら私となってみるかね? つ・が・い」
「クラリッサ! 貴女と言う人は……!」
「ぶはは! 昇クンと今の魔導人形は実にからかいやすいな!」
「……」
「昇さん……? 昇さーん⁉」
「おや、少年には少し刺激が強かったかな」
「貴女がわけのわからないことを言い出すから!」
思考が停止している僕を他所に、ララとクラリッサの言い争いはしばらく続くことになったらしい。
僕らがようやく屍人の潜伏先の一つらしき場所へ辿り着いたのは、おそよ三十分ほど経過してからの事である。




