(6)
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休日の上無市中心部は、連日の失踪事件報道などの影響を感じさせない人出があった。
それには地方の衛星都市らしい事情と言うか、そう言ったものが絡んでいる。
都心へ出るには少々時間がかかり、上無駅付近へ出れば買い物も娯楽も一通りは揃っているので、休日は結局駅前で過ごす割合が高くなるのである。
「それでクラリッサ。屍人を全部倒す事と、休日の昼間に駅前に来る事と、どう繋がって来るの?」
駅前の歩道橋の上から町並みを見渡しつつ、スマホの地図アプリらしきものを開いているクラリッサに尋ねる。
「屍人は昼間の内は活動が低下しているからね。潜伏している場所さえ見つけられれば、夜戦うよりも余程楽に倒せるんだよ。魔導人形との連携を昇クンが習熟するにはうってつけなのさ」
「倒す……か」
屍人が倒される場面は二度見ているとは言え、あんなものはそうそう見慣れるものではない。
「集団を形成していない屍人くらいは難なく倒せるようにならなきゃ、吸血種とは戦いにもならないよ」
「……頑張るよ」
「ああ、頑張りたまえよ。……ところで、さっきからそこの魔導人形は何をしているんだい?」
言われて後ろを振り返ると、ワンピースの上から薄手のガウンを羽織ったララが所在なさげにモジモジしていた。
「……多分、周囲の視線を気にしてるんだと思うけど」
「ぶはは! かつて私に表情一つ変えずに容赦ない攻撃を浴びせて来た魔導人形とは思えない変わりようだね」
「ウチの学校に乗り込んできた時はまだ感情の動きが抑えられていたとは言え、あっちの方がよっぽど目立つのにな……」
「面白いからまた写真撮っておこう」
「ふ……二人とも何を遊んでいるのですか!」
ケラケラ笑いながらララの周囲を回って激写しはじめたクラリッサのスマホを奪おうとするものの、ララはやはり自分の恰好が気になっているようで動きにキレがない。
いやあ、テンパってるなあ……。
「言っておくけど君のあの給仕服なんかで出歩いたらもっと人目につくんだから、町を出歩くのに妥当な服装をコーディネイトしてやった私に感謝して欲しいくらいなんだけどねえ、ゆるふわお嬢さん?」
「の……昇さん! 見てないでクラリッサを何とかしてください!」
「あー……あはは……」
その後しばらくクラリッサがララをからかった後、僕らはクラリッサの後について屍人の潜伏先を探して上無駅付近を歩き回る事になった。
――のだけれど。
「なんだ魔導人形ー、まーだ恥ずかしがってんのかい?」
「……うう」
休日の歩行者天国を歩けば、どうしたってララとクラリッサは何かと人目を引く。
「別に恥ずかしい恰好してないと思うんだけど」
「そう、でしょうか……」
やっぱり衆目の視線を気にしている節があるな……。
「なあ昇クン、そういうトコで気が利かないからお姫様が踏ん切りつかないんじゃないかね? からかう分には面白いが、あのままじゃただのポンコツだぞ」
クラリッサが小声で耳打ちしてきた。
「気が利かないって……どうしろって言うんだ」
「バカなのかキミは。あのキリングマシン、どういうワケか知らないが、あの恰好になってからすっかり乙女モード全開状態じゃないか。綺麗だとか可愛いだとか似合ってるだとか言っておだてりゃあ、ふわふわ舞い上がって人目も気にしなくなるんじゃないのかい?」
「ええぇ……そんな理由でベタ褒めしろとか言われても……」
「ホラホラ、私じゃあ何言っても逆効果なんだから、キミが頑張んないでどうすん……の!」
クラリッサはそう言うなり、俯いたまま立ち止まっているララの前に僕を押し出した。
完全に丸投げじゃないか……。
「昇さん……すみません」
「あ、いやー……その」
実際問題、さっき「別に恥ずかしい恰好してないと思う」なんてことを口にした以上、誉め言葉を上乗せしたところで効果的とは思えない。
何より、発露し始めた感情と言うものにまだ振り回され気味のララに必要なのは、言葉だけではないような気がした。
「大丈夫」
ララの手を取る。
昨晩、彼女がそうしてくれたように。
「昇さん……」
「大丈夫だから、行こう」
「……はい」
ようやくほんの少し、ララが笑った。
「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!」
形容しがたい呻き声が聞こえたかと思うと、クラリッサが電柱に頭を打ち付けていた。
「アオハルか!」
「し……仕方ないだろ」
「公共の物品を破壊するのは感心しませんよ」
「数秒前までモジモジ純情乙女だったキミに説教されたくないんだけど。……まあいい。じゃあこれから改めて探索を開始するよ」
そう言ってクラリッサは何やらスマホをいじくり始めた。
「この地図アプリというのは実に便利だね。これが五十年前にもあったら静との戦いはもっと楽しかっただろうに」
「楽しんでいたのは貴女だけです」
「吸血種に産まれたってだけで狙われたんだ。返り討ちにして楽しむ権利くらいあるってもんだよ」
「それでも――」
「はいはい、問答はこの件が片付いたら付き合ってあげるから。それより今はこっち。見ててごらん」
僕とララが画面を覗き込むと、画面の中から複雑な文字が刻まれた円形の魔術刻印がうっすらと浮き上がった。
「なんだこれ? こんなアプリあったの?」
「違う違う。私の魔術回路を同期してあるんだ。んで、こいつが――」
言いながらポケットから小さな小瓶を一つ取り出す。
その中には底の方に、黒っぽい灰のようなものが溜まっていた。
「――屍人だったものの残滓、だよ」
「う……それってつまり……」
言ってしまえば死体の一部みたいなものなのでは。
「そう露骨に嫌な顔しなさんなって。大事な手掛かりなんだから」
クラリッサは小瓶の蓋を開け、中の灰を数粒、浮かび上がった刻印に落とす。
するとアプリの地図上に矢印のような記号が表示されるようになった。
「これってもしかして……」
「そ。屍人と同じ波長の魔力の方向を指してるワケ」
エンジニアもびっくりの魔術組み込みアプリの誕生である。




