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第九話 人を斬るという事

はじめまして、大森林総史です。

主人公・優星(ゆうせい)が復讐の果てに何を見るのか。

そんな物語を書いてみました。

よろしければお読みいただけると嬉しいです。

 ――二年後。


 夜の山道を、数人の男達が走っていた。


「くそっ! 追って来やがる!」


 盗賊達の顔には焦りが浮かんでいる。


 その後方。


 黒い影が、静かに迫っていた。


「な、なんだあいつ……!」


 一人が震える声を漏らす。


 月明かりに照らされる黒髪。


 まだ少年の面影を残している。


 だが、その瞳には年相応の幼さは無かった。


 優星だった。


 挿絵(By みてみん)


 盗賊の一人が叫ぶ。


「ガキ一人だ! やっちまえ!」


 二人が同時に斬りかかる。


 だが。


 ギィン――!!


 一瞬だった。


 優星の刀が閃く。


 盗賊達の刀が弾き飛ばされた。


「なっ……!?」


 動揺した瞬間。


 優星の刀の柄が、男の腹へ叩き込まれる。


「がはっ!」


 男は崩れ落ちた。


 もう一人へ踏み込む。


 喉元へ刀を突きつけた。


「動くな」


 低い声。


 盗賊は青ざめる。


「ひっ……!」


 優星は周囲を見渡した。


 盗賊達は完全に怯えている。


 今回の任務は、小規模盗賊団の頭目の捕縛。


 氷魔から言われていた。


『抵抗が激しい場合は斬っても構わん』


 だが、本来は生け捕りが優先。


 優星は頭目を探す。


 その時。


「ガキがァ!!」


 背後から怒声。


 頭目だった。


 大柄な男が、狂ったような形相で刀を振り下ろしてくる。


 その瞬間。


 優星の脳裏に、あの夜が蘇った。


 血。


 倒れる光。


 月夜。


 そして――。


『隙を見せちゃいけねぇなァ』


 儀蔵の声。


「っ――!!」


 優星の目つきが変わる。


 獣のような獰猛さでは無く、感情が欠如した虚無の目。


 空気が凍った。


 盗賊の頭目が一瞬怯む。


「な、なんだその目……」


 次の瞬間。


 ザシュッ――!!


 血しぶきが舞った。


 頭目の身体がゆっくり崩れ落ちる。


 静寂。


 盗賊達は息を呑んだ。


「お、お頭……」


 優星は刀を握ったまま動かない。


 ぽたり。


 血が刀から落ちる。


「…………」


 本当は、捕縛出来たかもしれない。


 一瞬、そんな考えがよぎる。


 だが。


 脳裏に浮かぶのは、倒れた光。


 破れた白い退魔装束。


 優星は静かに目を閉じた。


「……甘さは、人を殺す」


 感情を押し殺すように呟く。


 その瞳から、光が消えていた。


 盗賊達は恐怖に震え、逃げ出していく。


 優星は追わなかった。


 ただ静かに刀を収める。


 夜風だけが吹いていた。


 屋敷へ戻る。


 戸を開けた瞬間。


 氷魔の目が、優星を見る。


「……終わったか」


「ああ」


 短い返事。


 その声に、氷魔は静かに目を細めた。


 優星の瞳。


 そこに宿る虚無を見て。


 感情が欠如し、生きているのに生気を感じられない。


「…………」


 氷魔は目を閉じる。


 ――やってしまった⋯か。


 心の奥で、そう呟いた。


 その時。


「優星様!」


 月花が駆け寄って来る。


 だが、優星の姿を見て足を止めた。


 返り血。


 そして。


 何より、その目。


「……優星様……?」


 月花の声が震える。


 優星は黙っていた。


 まるで、感情が消えてしまったようだった。


 月花の瞳に涙が浮かぶ。


「そんな顔を……しないでください……」


 その言葉に。


 優星の瞳が、わずかに揺れた。


「…………」


 ほんの少しだけ。


 消えかけていた光が戻る。


 優星は視線を逸らした。


「……疲れた」


 それだけ言って歩き去る。


 月花は涙を拭いながら、その背中を見つめていた。


 氷魔は静かに呟く。


「人を斬るという事は……」


 その続きを、口にはしなかった。


 夜は静かに更けていく。


 少年の心を、少しずつ闇へ染めながら。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

次話は7/8 20:00に投稿予定です。

続きも読んでもらえると嬉しいです。

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