第八話 鬼の芽
はじめまして、大森林総史です。
主人公・優星が復讐の果てに何を見るのか。
そんな物語を書いてみました。
よろしければお読みいただけると嬉しいです。
木刀が打ち鳴らされる。
乾いた音が、朝の庭へ響いた。
「遅い」
氷魔の木刀が、優星の肩を打つ。
「ぐっ……!」
優星は地面へ転がった。
痛みで息が詰まる。
だが、すぐ立ち上がった。
「もう一回……!」
氷魔は無言で構える。
再び打ち込む優星。
だが届かない。
見切られる。
弾かれる。
転ばされる。
何度も。
何度も。
「なぜ焦る⋯?」
氷魔が静かに言う。
優星は唇を噛み締めた。
「俺は……弱いからだよ……」
叫ぶような声だった。
「弱いから、姉ちゃんを守れなかった!」
木刀を握る手が震える。
「俺が弱かったから……!」
再び打ち込む。
だが、氷魔の木刀が優星の喉元へ突きつけられた。
一瞬で勝負は終わる。
「憎しみだけでは剣は鈍る」
氷魔は低く言った。
「復讐に囚われた剣は、己すら斬るぞ」
「だったらどうすればいいんだよ!!」
優星が叫ぶ。
目には涙が浮かんでいた。
「強くならなきゃ……姉ちゃんの仇を討てないじゃないか……!」
氷魔は黙って優星を見る。
その瞳の奥に宿るものを。
怒り。
悲しみ。
そして、自分自身への憎しみを。
「……今日は終わりだ」
氷魔は木刀を下ろした。
優星は荒く息を吐く。
しかし、その目はまだ燃えていた。
夜。
月花は縁側に座り、小さく息をついた。
「優星様……」
最近、優星樣は変わった。
前はもっと、泣いたり笑ったりしていた。
怖い夢を見て眠れない夜もあった。
けれど今は違う。
毎日、自分から修行を求める。
怪我をしても平気だと言う。
食事中も、ぼんやり刀を見ている。
時々、とても子供とは思えない目をする。
月花は胸が苦しくなった。
「……無理をしています」
その時だった。
庭から、木刀を振る音が聞こえた。
月花は立ち上がる。
暗い庭。
月明かりの中、優星が一人で木刀を振っていた。
何度も。
何度も。
手の皮が破れて血が滲んでいる。
それでも止めない。
「優星様!」
月花が駆け寄る。
優星は振り返らない。
「もう休んでください!」
「……まだだ」
「怪我をしています!」
「こんなの平気だ」
その声は冷たかった。
月花は悲しそうに目を伏せる。
「優星様……」
優星の木刀が止まる。
だが振り返らない。
「……弱いままじゃ駄目なんだ」
小さな声だった。
「もう……何も失いたくない……」
その背中は、ひどく孤独に見えた。
縁側から、その様子を氷魔が静かに見つめていた。
「…………」
優星は強くなる。
間違いなく。
だが。
このままでは。
強さと引き換えに、何かが壊れていく。
氷魔はそれを感じていた。
だが、止めることは出来ない。
止めれば、この少年は生き残れない。
氷魔は静かに目を閉じる。
「……難儀なものだな」
夜風だけが、静かに吹いていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
次話は7/6 20:00に投稿予定です。
続きも読んでもらえると嬉しいです。




