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第七話 月花

はじめまして、大森林総史です。

主人公・優星(ゆうせい)が復讐の果てに何を見るのか。

そんな物語を書いてみました。

よろしければお読みいただけると嬉しいです。

 山道を、氷魔は無言で歩いていた。


 その後ろを、優星がふらつきながらついていく。


 頭の中には、倒れた光の姿が焼き付いて離れなかった。


 白い退魔装束。


 地面に落ちた退魔刀白霞。


 そして――動かなくなった姉。


 優星は拳を握りしめた。


「……強くなりたい」


 氷魔は答えない。


 優星は唇を噛む。


「姉ちゃんの仇を討ちたい……」


 声が震えていた。


「だから……俺を鍛えてくれ」


 氷魔の足が止まる。


 冷たい風が吹き抜けた。


「復讐か」


 氷魔は振り返らない。


「憎しみは、人を強く見せる」


 静かな声だった。


「だが、真の強さは憎しみからは生まれん」


 優星は顔を上げる。


「……え?」


「怒りだけで振るう剣は、いずれ己を壊す」


 氷魔の言葉は重かった。


 まるで、自分自身へ言い聞かせているようにも聞こえる。


「それを……今のお前に身につけられるかな?」


 優星は答えられなかった。


 だが。


 それでも。


「……俺は強くなりたい」


 震える声で、そう言った。


 氷魔はしばらく黙っていたが、やがて歩き出す。


「ついて来い」


 その一言だけだった。


 山を越え、森を抜け。


 二人は小さな屋敷へ辿り着く。


 古びてはいるが、どこか静かな空気の流れる場所だった。


 氷魔が戸を開ける。


「戻ったぞ」


 すると、奥から小さな足音が聞こえた。


「お祖父様、お帰りなさいませ」


 現れた少女を見て、優星は息を呑んだ。


「……姉ちゃん?」


 つややかなな黒髪。


 柔らかな顔立ち。


 透き通るような瞳。


 光に、瓜二つだった。


 しかし違う。


 年齢は、もっと下。


 十三、四ほどだろうか。


 どこか幼さが残っている。


 少女は不思議そうに優星を見つめた。


「その方は……?」


「今日からここに置く」


 氷魔が短く答える。


 少女は優しく微笑んだ。


「初めまして、優星様」


 その声は、光よりも柔らかかった。


 優星は戸惑いを隠せない。


「……な、なんで、僕の名前を⋯」


「お爺様から聞きました」


 少女はぺこりと頭を下げた。


「私は月花と申します」


 月花。


 その名を聞いても、優星はまだ目を離せなかった。


 あまりにも似ている。


 けれど。


 光のような凛々しさではなく、春の花のような柔らかさがあった。


 月花は少し困ったように笑う。


「どうかなさいましたか?」


「……い、いや⋯な、何でもないよ!」


 優星は視線を逸らした。


 胸が苦しかった。


 思い出してしまう。


 優しく笑う姉の顔を。


 すると月花は、そっと優星の前へ膝をつく。


「お怪我をしています」


「こ、こんなの平気だよ!」


「平気ではありません」


 月花は優しく言った。


「少し、じっとしてくださいね」


 その声に、優星はそれ以上抵抗できなかった。


 月花は、丁寧に傷へ薬を塗る。


 その手は温かかった。


 優星は小さく目を伏せる。


 なぜだろう。


 ずっと張り詰めていたものが、少しだけ緩む気がした。


 月花は微笑む。


「これからよろしくお願いします、優星様」


 優星は答えられない。


 わずかに頷く。


 ただ、静かにその顔を見つめていた。


 ――姉に似た少女を。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

次話は7/4 20:00に投稿予定です。

続きも読んでもらえると嬉しいです。

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