第六話 修羅の目
はじめまして、大森林総史です。
主人公・優星が復讐の果てに何を見るのか。
そんな物語を書いてみました。
よろしければお読みいただけると嬉しいです。
「姉ちゃん!!」
優星は叫びながら駆け出した。
地面に倒れた光へ向かって。
しかし、光は答えない。
「姉ちゃぁんっ!! 返事してよぉっ!!」
血の気が引き、涙で目を真っ赤にしながら優星は走る。
だが、その前に盗賊達が立ちはだかる。
「ガキが!」
一人の盗賊が刀を振り下ろした。
「うわっ!」
優星は転がるように避ける。
だが次の瞬間、背後から別の盗賊に蹴り飛ばされた。
優星は、全身の痛みに悶える。
「ぐっ……!」
地面へ叩きつけられる。
小さな身体では、大人の力に敵わない。
さらに腕を押さえつけられる。
「離せぇ!!」
暴れる優星。
しかし盗賊は笑った。
「うるせぇガキだ」
刀が振り上げられる。
月明かりを受け、刃が銀色に光る。
間近に迫る死。
優星は初めて、本物の恐怖を知った。
(これが⋯殺し合い⋯)
姉を失った。
守れなかった。
何も出来なかった。
怒り。
憎しみ。
胸の奥から黒い感情が溢れ出す。
「⋯っ!! ⋯必ず殺す!!」
優星は唇を噛み締め、血がにじむ。
更に優星の目つきが変わった。
それはまるで悪鬼のように殺気に満ち、あどけない少年のものとは思えない。
「ぁ……」
盗賊が一瞬たじろぐ。
「こ、こんなガキに⋯!? うおおおおっ!!」
盗賊は恐れを押し殺すかのように、刀を振り下ろした。
優星に向かって振り下ろされる刀が、スローモーションのように感じられる。
(あ⋯死ぬ⋯僕は⋯)
その目は空虚に満ち、全てを諦めたように。
その時だった。
ザシュッ――!!
血しぶきが夜空へ舞う。
「がっ……!?」
血を吐いたのは、盗賊だった。
胸から刀が突き出ている。
その背後には、一人の男。
白髪混じりの長い髪。
氷のように冷たい目。
黒い外套を纏った忍び。
氷魔だった。
盗賊は崩れ落ちる。
返り血が、優星の顔へ降りかかった。
「……っ」
赤。
生温かい血。
(血⋯? 赤い⋯この匂い⋯これが人の血⋯)
優星は、初めての人の血の匂いに震え吐き気すら覚えた。
だが、空虚な目に光が戻る。
そして、姉、光への思いが溢れる。
姉を思う優しさ。
姉を失った悲しみ。
姉を守れなかった、悔しさが入り混じる。
「僕は⋯必ず⋯!」
氷魔は静かに刀を抜く。
「立て」
「ね、姉ちゃんが……!」
優星は光へ手を伸ばす。
だが氷魔は、その腕を掴んだ。
「行くぞ」
「い、嫌だ!! 姉ちゃんを!!」
優星は泣きながら暴れる。
しかし氷魔は冷たく言い放った。
「お前は弱い」
優星の動きが止まる。
「今のお前では何も出来ん」
「……っ」
「姉の仇を討ちたくば強くなれ」
静かな声だった。
だが、その言葉は刃のように突き刺さる。
(そ、そうだ⋯僕が強ければ⋯姉ちゃんを亡くさなくてすんだ⋯憎い⋯俺は自分の弱さが憎い⋯!!)
優星は何も言い返さなかった。
氷魔はそのまま優星を抱え、闇の中へ消えていく。
その背を、儀蔵は黙って見ていた。
しばらくして。
山道の奥から、豪華な着物を纏った男が現れる。
脂ぎった顔。
下卑た笑み。
悪代官だった。
「ふむ……終わったか」
倒れている光を見下ろし、鼻を鳴らす。
「こやつに恨みは無いが、退魔を消されると都合が悪いのでな」
悪代官は光へ近づこうとする。
その瞬間。
ギリ――ッ。
儀蔵の刀が、静かに向けられた。
悪代官の顔が引きつる。
「……な、なぜ止める?」
儀蔵は低く呟いた。
「仕留めた獲物は俺のものだァ……」
その目は、獣のように鋭かった。
「……誰にもやらねぇ」
ぞわり、と悪代官の背筋が震える。
儀蔵から溢れる殺気に、言葉を失った。
「……わ、分かった……好きにしろ……」
悪代官は後ずさる。
儀蔵は答えない。
ただ、闇の向こうを見つめていた。
脳裏に浮かぶのは、先ほどの少年の目。
憎しみ。
怒り。
修羅のような眼差し。
「……奴を逃がしたのは」
儀蔵が静かに呟く。
「間違いだったかもしれねぇなァ……」
夜風だけが、静かに吹いていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
次話は7/2 20:00に投稿予定です。
続きも読んでもらえると嬉しいです。




