第五話 罠
はじめまして、大森林総史です。
主人公・優星が復讐の果てに何を見るのか。
そんな物語を書いてみました。
よろしければお読みいただけると嬉しいです。
夜の風が、木々をざわめかせていた。
白い退魔装束を纏った光は、山道を静かに進む。
腰には退魔刀・白霞。
月明かりに照らされ、その刃が淡く輝く。
「……妙だわ」
光は足を止めた。
退魔が現れたという報せを受け、急ぎこの山へ向かった。
だが――。
「気配が……薄い……」
退魔特有の瘴気が感じられない。
風も静かすぎる。
嫌な胸騒ぎがした。
その時だった。
「うおおおおっ!」
茂みから黒い影が飛び出す。
牙を剥き、異形の仮面をつけた退魔――に見えた。
しかし。
「……違うわ!」
光は瞬時に踏み込み、白霞の峰で男の手首を打つ。
「ぐあっ!」
仮面が落ちた。
現れたのは、退魔ではなく人間。
薄汚れた盗賊だった。
「な……」
光が目を見開く。
「人……?」
「ちっ、バレたか!」
次の瞬間。
周囲の闇から次々と人影が現れる。
十人……いや、それ以上。
皆、退魔の仮面を被っていた。
「囲め!」
「殺せぇ!」
盗賊達が一斉に襲いかかる。
光は白霞を振るう。
だが刃は使わない。
峰打ち。
手首を打ち、足を払う。
次々と盗賊を無力化していく。
「ぐっ!」
「がはっ!」
光の剣は速く、美しかった。
まるで舞のように敵を制していく。
しかし。
「なぜ……人が退魔の真似を……?」
困惑が、光の動きをわずかに鈍らせる。
その時。
盗賊達が左右へ割れた。
重い足音。
一人の男が現れる。
黒い羽織。
鋭い目。
腰の刀から、異様な殺気が滲み出ていた。
「……あなたは? 何者です⋯!?」
男は口元を歪めた。
「儀蔵だァ⋯」
その名に、光の表情が変わる。
人斬りとして噂される剣鬼。
「退魔剣士か。噂通り綺麗な剣だなァ」
儀蔵が刀を抜く。
ぞわり、と空気が震えた。
次の瞬間。
ギィン!!
火花が散る。
光と儀蔵の剣がぶつかった。
速い。
重い。
互角。
光は驚く。
(この人……強い……!)
再び刃が交錯する。
光の剣技は決して劣っていない。
だが。
押される。
じわじわと。
呼吸が乱れる。
「どうした?」
儀蔵が笑う。
「人を斬れねぇ剣ってのは、甘いなァ」
その目には迷いがない。
人を斬ることへの躊躇が、一切無かった。
光は歯を食いしばる。
(この人は……)
その時だった。
「姉ちゃん!!」
幼い声が夜に響いた。
光の瞳が大きく開かれる。
「優星!?」
山道の先。
息を切らしながら、優星が立っていた。
「来ちゃダメ!!」
光が叫ぶ。
姉の顔に戻った、その一瞬。
儀蔵の目が細まった。
「隙を見せちゃァ⋯いけねぇなァ!」
ザン――。
「あ⋯っ!」
鈍い音。
光の身体が揺れた。
「に、にげて⋯ゆ、優星⋯⋯」
白い装束に裂け目が走る。
光の瞳が震え、そのまま崩れ落ちた。
「姉ちゃん……?」
優星の顔から血の気が引く。
退魔刀・白霞が地面へ転がった。
光は、うつぶせに倒れピクリとも動かない⋯
「姉ちゃん!!」
強くて優しい姉が、斬られた事が信じられなかった。
優星は無我中で駆け寄る。
涙を流しながら⋯
だが盗賊達が立ちはだかった。
「ど、どけよ! ね、姉ちゃぁん!!」
優星は泣き叫ぶ。
地面に倒れたまま動かない光。
月明かりだけが、静かに二人を照らしていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
次話は6/30 20:00に投稿予定です。
続きも読んでもらえると嬉しいです。




