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第十話 黒い炎

はじめまして、大森林総史です。

主人公・優星(ゆうせい)が復讐の果てに何を見るのか。

そんな物語を書いてみました。

よろしければお読みいただけると嬉しいです。

 それから数年が過ぎた。


 優星は強くなった。


 誰もが認めるほどに。


 盗賊。


 人さらい。


 殺し屋。


 悪党達を相手に幾度となく、刀を振るった。


 初めは震えていた手も、今では迷いなく刀を握る。


 敵を見れば動きが分かる。


 攻撃が来る前に身体が反応する。


 勝つために何をすれば良いか、考える前に身体が動いていた。


 それは才能だった。


 剣の才能。


 戦いの才能。


 氷魔ですら目を見張るほどの。


 だが――。


 優星の心は満たされなかった。


 悪党を倒しても。


 人々に感謝されても。


 強くなっても。


 何も感じない。


 姉の仇を討てるほど、強くなれば何か変わると思っていた。


 しかし現実は違った。


 空っぽだった。


 まるで心の一部が失われたままのように。


 ある日の任務。


 山賊達の根城。


 十数人いた敵は、あっという間に倒れた。


 最後の一人が刀を落とす。


「ま、待ってくれ……!」


 男は震えていた。


 優星は静かに見下ろす。


 感情は無い。


 怒りも。


 憎しみも。


 同情も。


 ただ任務だから。


 それだけだった。


 男はその目を見て青ざめる。


「お、お前……本当に人間か……?」


 優星は何も答えなかった。


 やがて縄をかけ、役人へ引き渡す。


 それで終わり。


 ただそれだけだった。


 屋敷へ戻る。


 夕暮れだった。


 縁側には氷魔がいた。


「帰ったか」


「ああ」


 短い返事。


 氷魔は優星を見る。


 その姿。


 その剣。


 その立ち居振る舞い。


 どれも見事だった。


 もはや自分以上かもしれない。


 戦う事だけなら。


 そう思えるほどに。


 だが。


 氷魔は静かに目を閉じた。


 優星の瞳に、生気が無い。


 生きている。


 確かに生きている。


 しかし、生きようとしている人間の光が消えかけている。


 強くなった代償。


 それを氷魔は、誰よりも理解していた。


「…………」


 氷魔は何も言わない。


 言えなかった。


 優星は、そのまま屋敷へ入る。


 入れ違いに、月花が顔を出した。


「優星様、お帰りなさいませ」


「ああ」


 それだけ。


 微笑みも無い。


 昔のように戸惑う事も無い。


 優星は、そのまま部屋へ向かう。


 月花は、悲しそうにその背中を見つめた。


「お爺様……」


 氷魔は答えない。


「優星様は……」


 月花の声が震える。


「大丈夫なのでしょうか……」


 長い沈黙。


 そして氷魔は静かに言った。


「大丈夫ではない」


 月花が顔を上げる。


「強くなった」


 氷魔は続ける。


「だが、傷つく事に慣れ⋯心が動かなくなり始めている」


 月花の瞳に涙が浮かぶ。


「そんな……」


「だが、あやつ自身が乗り越えねばならん」


 月花は唇を噛み締める。


 何も言えなかった。


 その夜。


 優星は一人、庭に立っていた。


 夜空を見上げる。


 満月が浮かんでいる。


 昔なら。


 姉を思い出して、泣いていたかもしれない。


 今は違う。


 何も感じない。


 ただ静かに月を見つめるだけ。


 心の奥で燃え続ける炎。


 それは熱を持たない。


 人を温める事もない。


 ただ静かに。


 黒く燃え続けていた。


 そして、時は流れる。


 復讐鬼の物語が始まる時へ――。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

次話は7/10 20:00に投稿予定です。

続きも読んでもらえると嬉しいです。

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