二十三話 帰る場所
はじめまして、大森林総史です。
主人公・優星が復讐の果てに何を見るのか。
そんな物語を書いてみました。
宜しければ、お読みいただけると嬉しいです。
静かな風が吹いていた。
悪代官は役人に引き渡され、盗賊団も捕縛された。
一連の事件は終わりを迎えようとしていた。
その中で。
優星は儀蔵と向かい合っていた。
かつて憎しみの全てを向けた男。
今は不思議と怒りは薄れている。
もちろん許したわけではない。
だが、憎しみだけではなかった。
「お前はこれからどうする?」
優星が静かに尋ねる。
儀蔵は少し空を見上げた。
「人斬り儀蔵はもういねぇ」
風が吹く。
「ただの罪人だ」
そして小さく笑った。
「自首するさ」
優星は黙って聞いていた。
儀蔵は続ける。
「逃げるのにも飽きた」
その表情はどこか晴れやかだった。
「長い旅だったぜ」
優星は何も言わない。
だが。
儀蔵の言葉が嘘ではないことだけは分かった。
「達者でな」
儀蔵は背を向けた。
振り返らない。
その背中は少しだけ小さく見えた。
人斬り儀蔵は終わったのだ。
優星は静かに見送った。
――そして。
その日の夕暮れ⋯
氷魔の屋敷。
久しぶりの静かな時間だった。
居間には優星と月花だけがいる。
夕暮れの光が差し込んでいた。
月花が湯呑みを置く。
「優星様」
「ん?」
「これからどうしますか?」
優星は少し考えた。
そして静かに答える。
「師匠と姉さんを探すさ」
月花は微笑む。
「そうですわね」
まだ終わっていない。
光も。
氷魔も。
必ず見つける。
そんな確信があった。
だが。
優星はそこで言葉を止めた。
「そ⋯その前に⋯⋯」
「?」
月花が首を傾げる。
次の瞬間だった。
「きゃっ!」
優星が月花の膝へ倒れ込んだ。
「ゆ、優星様!?」
月花の顔が真っ赤になる。
だが。
優星は動かない。
「ね、寝かせてくれ……」
かすれた声。
「膝の上で……」
「え?」
「たの……む……」
そして。
「Zzz……」
寝た。
一瞬だった。
月花は呆然とする。
「まっ……」
言葉が出ない。
しばらくして。
大きくため息をついた。
「仕方ありませんわね……」
優しく髪を撫でる。
優星は完全に眠っていた。
安心しきった顔。
戦いの時の鋭さはない。
まるで子供のようだった。
月花は思わず微笑む。
「こんな顔もするのですね……」
ずっと戦っていた。
姉を探し。
師を追い。
復讐に揺れ。
何度も傷付いた。
そんな優星が。
今だけは何も背負っていない。
ただ眠っている。
月花は静かに空を見上げた。
窓の外には夕焼けが広がっている。
穏やかな風。
懐かしい屋敷。
帰る場所。
守りたかった場所。
月花は優星の寝顔を見つめる。
そして小さく呟いた。
「わたしも……疲れました……」
その声は優しかった。
優星の呼吸は穏やかだ。
しばらくすると。
月花も柱にもたれた。
ゆっくりと瞼が閉じる。
祖父も。
光も。
まだ見つかってはいない。
だが。
二人は確かに前へ進んでいた。
静かな夕暮れの中。
束の間の安らぎが二人を包み込んでいた――。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
次話は8/5 20:00に投稿予定です。
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