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二十二話 氷の魔人

はじめまして、大森林総史です。

主人公・優星(ゆうせい)が復讐の果てに何を見るのか。

そんな物語を書いてみました。

宜しければ、お読みいただけると嬉しいです。

 静かな部屋だった。


 優星はまだ信じられずにいた。


「師匠も……生きている……?」


 月花は小さく頷く。


「ええ……おそらくは……」


 そして儀蔵を見る。


「儀蔵様が話してくださいました」


 優星も儀蔵へ視線を向けた。


 儀蔵は腕を組み、しばらく黙っていた。


 やがて口を開く。


「あの爺さんは化物だ……」


 優星が眉をひそめる。


「師匠が……?」


「剣の勝負なら俺が勝っていた」


 儀蔵は淡々と続ける。


「体力も俺が上だった」


 そして静かに笑った。


「だが……心は完敗だった」


 優星も月花も黙って聞いている。


 儀蔵は遠くを見るように語り始めた。


 ――あの日。


 山中。


 氷魔と儀蔵は対峙していた。


 互いに刀を構える。


 戦いは儀蔵が押し込んでいる。


 力も体力も儀蔵が上、氷魔には無数の切り傷がある。


 しかし⋯


「やはり⋯哀れな男よのう」


 氷魔が再びそう呟いた。


「何だと……? ま、まだ言うか⋯爺!!」


 儀蔵の目が鋭くなる。


「復讐に囚われ、自らを見失っておる」


「黙れ!!」


 儀蔵は激昂した。


 刀を振るう。


 鋭い斬撃。


 だが。


 氷魔は静かに見つめている。


「お主の剣、確かに凄まじいが……」


 儀蔵の刃が迫る。


 それでも氷魔は冷静だった。


「殺気が乱れておるぞ」


「黙れ!! 黙れぇっ!!」


 儀蔵は我を忘れて斬りかかった。


 剣技が乱れる。


 力任せになる。


「力任せの剣など……」


 氷魔は紙一重でかわす。


 まるでふわりとそよ風が流れるように。


「くっ……!」


 儀蔵の額に汗が浮かぶ。


 だが止まらない。


 止まれない。


 氷魔はふと笑った。


(修行を始めた頃の優星に似ておる……)


 荒れる心。


 乱れる剣。


 かつて見た少年の姿が重なった。


 儀蔵はさらに攻める。


 斬る。


 突く。


 薙ぎ払う。


 だが。


 当たらない。


 まるで水を斬っているようだった。


 その時。


 氷魔が言った。


「もっと怒れ……」


「何……?」


「愛する者を奪われた時の痛みを思い出せ」


 儀蔵の身体が硬直する。


「……っ!!」


 脳裏によみがえる。


 妻。


 そして幼い子供。


 失った日々。


 忘れたくても忘れられなかった光景。


「儂を憎め」


 氷魔は静かに刀を構えた。


「仇だと思え」


 儀蔵の瞳に光が戻る。


「思い出せ」


 氷魔の声が響く。


「あの悲しみを」


「こんの野郎ぉぉぉっ!!」


 儀蔵は咆哮した。


 再び斬りかかる。


 だが。


 氷魔は避ける。


 避ける。


 避け続ける。


 怒りではない。


 悲しみを受け止めるように。


 流れる水のように。


「なぜだ……!」


 儀蔵は息を荒げた。


「なぜ当たらねぇ!!」


 氷魔は静かに答える。


「さぁの……」


 そして。


「お主の愛する者が止めておるのではないか?」


「……!!」


 儀蔵の脳裏に。


 再び妻と子供の姿が浮かぶ。


 笑っていた。


 幸せだった頃のまま。


 儀蔵の剣が僅かに震える。


 その瞬間。


 氷魔が刀を構えた。


「さあ」


 静かな声だった。


「必殺の一撃を撃ってこい」


 儀蔵が顔を上げる。


「……」


「お主の最高の一撃を」


 儀蔵は全身の力を込めた。


 怒り。


 悲しみ。


 後悔。


 失った人生。


 全てを乗せる。


「うおおおおおおっ!!」


 渾身の一撃。


 山が震えるほどの斬撃。


 氷魔は正面から迎え撃つ。


 刀と刀が激突した。


 轟音。


 火花。


 そして。


 ピシッ――


 氷魔の刀にヒビが走る。


(いかん……!)


 氷魔の目が見開かれる。


(刀が折れるとは思わなんだ……!)


 次の瞬間。


「氷遁――氷霧の術!!」


 白い霧が一帯を包み込んだ。


 霧は僅かに赤く染まる⋯


 視界が消える。


 気配も消える。


 儀蔵は思わず叫んだ。


「消えやがった……!」


 霧が晴れる。


 そこには誰もいない。


 ただ。


 刀に僅かな血が残っていた。


 儀蔵はその血を見つめる。


 そして。


 現在へと戻った。


「――そして」


 儀蔵は優星を見た。


「お前が来たってわけだ」


 優星は呆然としていた。


「……あの爺……」


 月花も目を潤ませる。


「お爺様……」


 儀蔵は苦笑した。


「焦ったぜ」


「……?」


「あの時、お前と戦っていたら」


 優星を見据える。


「確実に負けていた」


 優星は黙る。


「その上に……」


 儀蔵の声が低くなる。


「俺と同じになっていた」


 静寂。


 優星の拳が僅かに震える。


 復讐。


 憎しみ。


 怒り。


 その先に何があるのか。


 目の前の男が答えだった。


 そして氷魔は。


 その未来を見抜いていた。


 部屋に重い沈黙が流れる――。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

次話は8/3 20:00に投稿予定です。

続きも読んでもらえると嬉しいです。


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