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二十一話 折れた退魔刀

はじめまして、大森林総史です。

主人公・優星(ゆうせい)が復讐の果てに何を見るのか。

そんな物語を書いてみました。

宜しければ、お読みいただけると嬉しいです。

 悪代官は役人へ引き渡された。


 盗賊団も次々と捕縛され、この地を覆っていた闇は少しずつ晴れ始めていた。


 だが――


 優星の心は晴れていない。


 儀蔵の小屋。


 静かな部屋の中。


 優星は儀蔵を睨みつけていた。


 姉を斬った男。


 師匠を斬った男。


 その事実は変わらない。


「お前のせいで……」


 優星の拳が震える。


「姉さんは姿を消し……師匠は生死も分からない……!」


 儀蔵は黙っている。


「お前さえいなければ――」


「待ってください」


 月花が二人の間に立った。


 優星が振り向く。


「月花……」


 月花は静かに首を横に振った。


「光様は確実に生きています」


 優星が目を見開く。


「なっ……」


「そして、お爺様もおそらく生きています」


「どういう事だ……?」


 月花は儀蔵を見る。


 儀蔵は小さくため息を吐いた。


「……ついてこい」


 三人は小屋の奥へ向かった。


 普段使われていない古い部屋。


 儀蔵が戸を開ける。


 そこには一本の刀が置かれていた。


 古い部屋の中で手入れをされ、優美なままだった。


 優星の目が見開かれる。


「これは……!」


 見間違えるはずがない。


 白い鞘。


 優美な(こしら)え。


 姉が愛用していた退魔刀。


白霞(はくか)……!」


 優星は思わず駆け寄った。


「姉さんの退魔刀……!」


 刀を手に取る。


 間違いない。


 だが理解できない。


 なぜ儀蔵が持っているのか。


「なぜお前が持っている!?」


 儀蔵は壁にもたれた。


「……退魔刀は持ち主が死ねば折れる」


 優星の動きが止まる。


「何……?」


 儀蔵は白霞を見る。


 その刀身は折れていない。


 傷一つない。


「光は生きている」


 優星の呼吸が止まりそうになる。


「……!」


「少なくとも俺が別れた時はな」


 沈黙。


 優星は刀を見つめる。


 震える指。


 信じたい。


 だが信じきれない。


「なぜ……そんな事を知っている?」


 優星が低く問う。


 儀蔵は少しだけ空を見上げた。


「俺もそうだったからさ」


「……?」


 優星と月花は顔を見合わせた。


 儀蔵は静かに語り始める。


「昔の俺は退魔剣士だった」


 優星の目が見開く。


「なに……?」


「信じなくても構わねぇ」


 儀蔵は苦笑した。


「だが事実だ」


 月花は黙って聞いている。


「妻がいた」


 儀蔵の声が僅かに低くなる。


「子供もいた」


 優星は何も言えない。


「退魔退治は過酷だったが⋯俺は幸せだった⋯しかし⋯」


 儀蔵は目を瞑る。


「ある日、鬼退治から帰った」


 儀蔵は拳を握る。


「帰ったら……二人とも死んでいた」


 静寂。


 誰も言葉を発しない。


「明らかに人に斬られた後だった」


「怒ったよ」


 儀蔵は笑う。


 だが目は笑っていない。


「そりゃあ、もう狂うほどにな」


 そして。


「犯人を見つけた」


 優星は息を呑む。


「その時だった」


 儀蔵は自分の腰を見た。


 今は折れた刀しかない。


「退魔刀が折れた」


 月花が目を伏せる。


「復讐に飲まれたからですか……」


「だろうな」


 儀蔵は肩をすくめた。


「退魔剣士として失格になった」


 優星は黙って聞いている。


「ならせめて」


 儀蔵は遠くを見る。


「同じ人間を増やさないようにしようと思った」


「だから人斬りになったのか?」


 優星が問う。


「皮肉な話だろ」


 儀蔵は笑う。


「気付けば人斬り儀蔵なんて呼ばれてた」


 月花は悲しそうな顔をした。


「満たされましたか?」


 儀蔵は即答した。


「一度もねぇ」


 その言葉だけは迷いがなかった。


 長い沈黙。


 そして。


 儀蔵は白霞を見た。


「そんな時だった」


「……?」


「お前の姉と会ったのは」


 優星の身体が強張る。


「斬るつもりだった」


 儀蔵は正直に言う。


「だが斬れなかった」


「なぜだ?」


「女だからだ」


 儀蔵は鼻で笑う。


「女、子供は斬らねぇ」


 少し間を置く。


「いや」


 儀蔵は首を振った。


「斬れねぇんだ」


 静かな声だった。


「人斬り儀蔵が聞いて呆れるぜ」


 優星は何も言えない。


「だから当て身を食らわせて気絶させた」


「……!」


「悪代官にも触らせなかった」


 月花は目を閉じる。


 やはり。


 あの時感じた違和感は間違いではなかった。


「その後、密かに逃がした」


 儀蔵は肩をすくめる。


「その後、どうなったかは知らねぇ⋯評判の良い宿屋の前まで、女が倒れているからたすけてくれと叫び、人斬りの俺は消えた」


 優星は白霞を見つめた。


 そして小さく呟く。


「俺と同じだ……」


 儀蔵が目を向ける。


 だが。


 月花は静かに首を横に振った。


「いいえ」


 二人が月花を見る。


「違います」


 月花の声は優しかった。


 だが力強い。


「光様も」


 一歩前へ出る。


「お爺様も」


 そして。


「私も生きています」


 月花は優星を真っ直ぐ見た。


「優星様はまだ失っていません」


 部屋に静かな沈黙が流れた――。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

次話は8/1 20:00に投稿予定です。

続きも読んでもらえると嬉しいです。


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