第二十話 闇の中の光
はじめまして、大森林総史です。
主人公・優星が復讐の果てに何を見るのか。
そんな物語を書いてみました。
宜しければ、お読みいただけると嬉しいです。
折れた刀の刃が宙を舞う。
くるくると回転し――
畳へと突き刺さった。
静寂。
誰も動かない。
儀蔵は、目の前の少年を見つめていた。
「何者だ……お前……?」
そこに立っているのは間違いなく優星。
だが違う。
生きている。
なのに目が死んでいる。
儀蔵は、数え切れぬほどの人間を斬ってきた。
憎しみに狂った者も見た。
恐怖に怯える者も見た。
復讐に燃える者も見た。
だが。
こんな目は見たことがない。
怒りすら消えた瞳。
何も映していない虚無。
まるで――
闇そのもの。
(これが真の鬼……?)
いや。
違う。
(闇に飲まれた男か……)
その時だった。
儀蔵の身体が僅かに震えた。
ブルッ……
(震えている……?)
儀蔵は目を見開く。
(この俺が……!?)
優星は無言だった。
白銀の刃を逆手に持ち替える。
そして。
ゆっくりと振り上げた。
白銀の刃が月明かりに照らされ、美しく輝く。
惨劇の直前だと言うのに⋯
狙いは儀蔵。
躊躇は無い。
振り下ろされれば終わる。
だが――
「止めなさい! 優星!!」
鋭い声が響いた。
優星の身体が止まる。
「ね……姉さん……?」
死んでいた瞳に光が戻る。
だが。
そこにいたのは光ではない。
月花だった。
月花は、涙を流していた。
「言ったでしょう……」
震える声。
「自分を見失うなって……」
優星の瞳が揺れる。
手から力が抜ける。
刀先が、ゆっくり下がった。
月花は、今度は儀蔵を見る。
涙を拭いもせず。
真っ直ぐに。
「儀蔵様も……」
儀蔵は苦笑した。
「……?」
「自分の身は自分で守れと言っておきながら、この様ですか?」
儀蔵は鼻で笑う。
「へっ……」
そして呟いた。
「爺さんに似てやがる……」
月花は、小さく息を吐く。
優星は、ようやく我に返った。
「つ、月花……」
目を見開く。
「無事だったのか……」
そして。
儀蔵を見る。
「儀蔵……!」
再び怒りが込み上げる。
「決着はまだ――」
「いや」
儀蔵は遮った。
折れた刀を見つめる。
「刀が折れちゃ戦えねぇ」
そして静かに言った。
「俺の負けだ」
だが優星は納得できない。
姉の仇。
師匠の仇。
そんな言葉で終われるはずがなかった。
一歩踏み出そうとする。
その時。
「優星様」
月花が呼び止めた。
優星が振り向く。
月花の瞳は真剣だった。
「真相を知った今、まず捕らえるべきは誰ですか?」
優星が息を呑む。
「……!」
「忍びの務めを果たしてください」
静かな言葉。
だが鋭かった。
優星は拳を握る。
そして。
ハッとした。
視線が悪代官へ向く。
いつの間にか悪代官は壁際まで後退していた。
顔面蒼白。
汗だく。
「ま、待て!」
優星は動いた。
一瞬だった。
悪代官が、逃げ出そうとした瞬間。
背後へ回り込む。
「ひっ!?」
腕を捻り上げる。
床へ押さえつけた。
「離せ!」
「黙れ」
優星の声は冷たい。
「貴様には聞きたい事が山ほどある」
悪代官は暴れる。
だが逃げられない。
優星は縄を取り出し、素早く拘束した。
月花は安堵の息を漏らす。
儀蔵は黙って見ていた。
そして。
小さく笑った。
「ようやく忍びらしくなったじゃねぇか……」
優星は答えない。
ただ悪代官を見下ろしていた。
復讐ではない。
使命のために。
その瞳は、再び前を向き始めていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
次話は7/30 20:00に投稿予定です。
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