第二話 帰る場所
はじめまして、大森林総史です。
主人公・優星が復讐の果てに何を見るのか。
そんな物語を書いてみました。
よろしければお読みいただけると嬉しいです。
夜の山道を、一人の男が歩いていた。
黒装束。
腰には血に濡れた忍刀。
月明かりに照らされたその顔は、冷たく鋭い。
優星。
人を斬ることに躊躇いを捨てた、復讐鬼。
だが、その瞳の奥には、わずかに疲れが見えていた。
山奥へ進むと、古びた庵が見えてくる。
優星は無言で戸を開けた。
「……戻ったか」
囲炉裏の前で胡座をかいていた老人が、低い声で言った。
白髪。
鋭い眼光。
ただ座っているだけで、只者ではないと分かる気配。
元忍――氷魔。
優星の師であり、育ての親。
「遅かったな」
「仕事だ」
短く答える優星。
氷魔は鼻で笑った。
「……また人を斬った顔をしておる」
優星の眉がわずかに動く。
「余計な詮索はするな」
「ほう。儂に隠し事か」
氷魔は酒を煽る。
「お前は昔から顔に出る」
優星は黙った。
囲炉裏の火が、静かに揺れる。
その時――。
「優星様!」
奥から少女が駆けてきた。
長い黒髪。
月のように優しい瞳。
月花。
氷魔の孫娘だった。
「お帰りなさい!」
そう言って笑う姿に、優星はわずかに目を細める。
ほんの一瞬だけ。
復讐鬼の顔が消えた。
「怪我は?」
「問題ない」
「また無茶したんでしょう?」
「していない」
「嘘です」
月花はぷくっと頬を膨らませる。
氷魔が笑った。
「はっはっは! 見抜かれておるわ!」
「爺」
「何だ」
「うるさい」
珍しく月花が吹き出した。
優星は舌打ちする。
だが、その空気はどこか穏やかだった。
月花はふと、優星の刀についた血に気づく。
笑顔が少し曇った。
「……また、悪い人を?」
「……ああ」
「そう……」
月花は俯いた。
優星は目を逸らす。
月花だけは、慣れない。
人を斬る自分を見られるのが。
氷魔が静かに口を開いた。
「優星」
「……何だ」
「復讐に呑まれるな」
空気が変わる。
囲炉裏の火が、パチリと鳴った。
「お前の目……最近、死んだ人間の目をしておる」
優星の拳がわずかに震える。
「……仇を討つ」
「それだけでは、人は生きられん」
「俺は生きるために、生きているわけじゃない」
沈黙。
月花が不安そうに優星を見る。
氷魔は静かに酒を置いた。
「……儂は、お前に姉の後を追ってほしくて育てたわけではない」
優星の瞳が鋭くなる。
「光姉さんを侮辱するな」
「しておらん」
氷魔の声は低い。
「だが、あやつは復讐のために剣を振るう女ではなかった」
優星は立ち上がった。
「……寝る」
「逃げるか」
「黙れ」
優星は奥へ歩いていく。
だが、その背中に月花が小さく言った。
「優星様……」
足が止まる。
「……あまり、無茶しないでください」
優星は答えない。
だが、わずかに握っていた拳の力が抜けた。
部屋へ入る。
暗い天井を見上げる。
――復讐に呑まれるな。
氷魔の言葉が頭に残る。
優星は静かに目を閉じた。
すると脳裏に浮かぶ。
血。
炎。
泣き叫ぶ幼い自分。
そして――。
優しく微笑む姉、光。
優星は奥歯を噛み締めた。
「……必ず討つ」
その声は、闇へ沈んだ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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