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第十六話 忍びとは…

はじめまして、大森林総史です。

主人公・優星(ゆうせい)が復讐の果てに何を見るのか。

そんな物語を書いてみました。

よろしければお読みいただけると嬉しいです。

 氷魔の暗号が示した場所。


 優星は静かに建物を見上げた。


 気配はない。


 人の出入りもない。


 既に逃げた後だった。


 しかし、優星に落胆はない。


 むしろ当然だと思っていた。


「……遅かったか」


 静かに呟く。


 悪代官ほどの男なら、逃げ道はいくつも用意している。


 氷魔もそれを承知で暗号を残したのだろう。


 優星は周囲を調べ始めた。


 足跡。


 荷車の跡。


 捨てられた荷札。


 わずかな情報を拾い集める。


 忍びとは情報を集める者。


 戦うだけではない。


 氷魔が教えてくれたことだった。


「まだ追える……」


 優星の目は鋭かった。


 その頃。


 悪代官は新たな隠れ家で、ようやく安堵していた。


「ふう……これでひと安心だな」


 汗を拭う。


 しかし。


 部屋の隅で胡坐(あぐら)をかいていた儀蔵が口を開く。


「まだ安心できねェぞ……」


 悪代官の顔が曇る。


「どういうことだ?」


 儀蔵は鼻で笑った。


「忍びを甘く見ちゃいけねェ……」


 血走った目が細くなる。


「あいつらは、僅かな手がかりから推測するのが得意分野だ」


 悪代官の顔色が変わる。


「な、なんだと!?」


 立ち上がる。


「おい! 総出で探せ!」


 家臣達が慌てる。


「盗賊共も使え! あのガキを探し出せ!」

   

 怒号が飛ぶ。


 だが。


 儀蔵は首を振った。


「そんなんじゃ見つからねぇよ……」


 悪代官が振り向く。


「ならどうする!?」


 儀蔵は立ち上がった。


 口元が歪む。


「俺に任せな」


 その目が妖しく光る。


「血の匂いから居場所を突き止めてやらァ……」


 悪代官は息を呑む。


 そして黙って頷いた。


 儀蔵は、氷魔と戦った山へと向かった。


「優星との戦いは、誰にも邪魔はさせねェ⋯」


 霧が晴れ、美しい緑の山。


「匂うぜェ⋯」


 儀蔵は静かに歩き出す。


 血に飢えた鮫の如き嗅覚で、真っ直ぐに氷魔の屋敷の方へと足が向く。


 夕暮れ。


 氷魔の屋敷。


 月花は縁側で空を見上げていた。


 静かだった。


 だが。


 その静寂の中に異質な気配を感じる。


 ぞくり。


 背筋が冷えた。


「……!」


 立ち上がる。


 間違いない。


 近い。


 あまりにも濃い殺気。


 氷魔が警戒していた男。


 儀蔵。


 月花は急いで部屋へ戻った。


 机に向かう。


 紙を広げる。


 筆を取る。


 そして短く書いた。


『優星様、自分を見失わないで下さい』


 それだけだった。


 言いたいことは山ほどある。


 だが時間がない。


 月花は静かに紙を置く。


 そして振り返った。


 障子の向こう。


 気配がある。


 もう来ている。


 逃げられない。


 戦っても勝てない。


 それは分かっていた。


 だから月花は静かに障子を開いた。


 そこに立っていたのは。


 儀蔵。


 月花を見下ろしている。


「……来ましたか」


 儀蔵は答えない。


 ただ見つめる。


 月花は拳を握る。


 怖い。


 身体が震える。


 だが逃げない。


「優星様はここにはいません」


 儀蔵が鼻を鳴らす。


「知ってる」


 低い声だった。

  

 月花は覚悟を決める。


「……私を連れて行くのですね」


 儀蔵は頷いた。


 月花は抵抗しなかった。


 勝てない戦いで命を落とす意味はない。


 優星の邪魔になるだけだ。


 儀蔵の横を通り過ぎる。


 その時。


 肩が小さく震えた。


 恐怖だった。


 まだ若い少女なのだ。


 怖くないはずがない。


 儀蔵はそれを見た。


 しばらく沈黙する。


 やがて。


 ぼそりと呟いた。


「安心しな」

  

 月花が振り返る。


 儀蔵は前を向いたままだった。


「俺は女、子供は斬らねェ……」


 月花は目を見開いた。


 だが何も言わない。


 二人は夜の闇へ消えていった。


 その頃。


 優星は最後の手がかりを見つけていた。


 悪代官の次の潜伏先。


 場所が見え始めている。


「待っていろ……」


 優星は走り出した。


 まだ知らない。


 屋敷で月花が連れ去られたことを。


 月明かりの下。


 儀蔵は歩いていた。


 後ろには月花。

  

 その足がふと止まる。


 儀蔵は振り返らない。


 だが小さく呟いた。


「爺さんと同じ目をしてやがる……」


 月花は黙ったまま。


 僅かに瞳が潤んでいる。


 儀蔵は苦く笑う。


「血は争えねぇか……」


 夜風だけが静かに吹いていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

次話は7/22 20:00に投稿予定です。

続きも読んでもらえると嬉しいです。

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