表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/26

第十五話 残された暗号

はじめまして、大森林総史です。

主人公・優星(ゆうせい)が復讐の果てに何を見るのか。

そんな物語を書いてみました。

よろしければお読みいただけると嬉しいです。

 氷魔の部屋。


 優星は、折れた刀を前に座り込んでいた。


 月花もまた、静かにその様子を見守っている。


 机の上には紙が広げられていた。


 氷魔が残した暗号。


 優星は何度も目を通し、書き写し、並べ替える。


 やがて──


「……そういうことか」


(退魔のふりをしていた盗賊団を悪代官が裏で手引きし、私腹を肥やしていた。だが、本物の退魔剣士である姉さんと、いずれ戦いになる事を恐れ、儀蔵を雇っていた⋯これが真相か)


 優星が顔を上げた。


 月花が振り向く。


「分かったんですか?」


「ああ」


 優星は静かに頷いた。


「師匠は、死ぬつもりじゃなかった」


 月花の瞳が揺れる。


「えっ……?」


「この暗号は別れの言葉じゃない」


 優星は紙を指差した。


「悪代官の名前と居場所だ」


 月花は息を呑んだ。


 氷魔は最後の瞬間まで戦っていた。


 ただ死を待ったのではない。


 全てを優星へ託していたのだ。


 優星は立ち上がる。


「行く」


 月花は止めなかった。


 ただ静かに立ち上がる。


「優星様」


「…なんだ」


「お願いがあります」


 優星は振り返る。


 月花は真っ直ぐ見つめた。


「自分の手で裁こうとしないで下さい」


 その言葉に優星は目を伏せる。


 復讐。


 その二文字は今も心の中にある。


 だが。


 月花の涙を見た。


 震える手も見た。


 だから。


 優星はゆっくり頷いた。


「……分かった」


 月花は少しだけ微笑んだ。


「行ってらっしゃい」


 優星は静かに屋敷を後にした。


 その頃。


 悪代官の屋敷。


 襖が開く。


 儀蔵が入ってきた。


 服には無数の傷。


 乾いた血がこびりついている。


 悪代官は顔をしかめた。


「戻ったか」


 儀蔵は返事をしない。


「奴は仕留めたのか?」


 しばし沈黙。


 やがて儀蔵が口を開く。


「……分からねぇなァ」


 悪代官の顔色が変わった。


「何だと!?」


 机を叩く。


「それでも人斬りか!」


 儀蔵は肩を竦めた。


「言い訳はしねェ」


 悪代官は舌打ちする。


「役立たずめ……」

 

 だが儀蔵は気にも留めない。


「それより」


 血走った目が悪代官を見た。


「奴は忍びだァ」


 悪代官の顔が青ざめる。


「何……?」


「あのガキだ」

 

 優星の顔を思い出す。


 あの冷たい瞳。


 氷魔に似た目。


「多分、あんたの事もバレてるぜェ」


 悪代官が立ち上がる。

 

「なっ……!」


 額から汗が流れる。


「ど、どうすれば良い!?」


 儀蔵は鼻で笑った。


「場所を変えるこった」


 悪代官は慌てて家臣達を呼ぶ。


「急げ! 準備しろ!」


 屋敷が騒がしくなる。


 儀蔵はそれを眺めながら壁にもたれた。


 やがて悪代官達が去る。


 静寂。


 儀蔵はひとりになった。


 そして。


「フ⋯フフフ⋯」

 

 口元が歪む。


「あのガキ……」


 優星。


 あの日の少年。


 だがもう違う。


 氷魔の弟子。


 そして。


 姉を失い。


 人を斬り。


 憎しみを抱え続けた男。


「似てるぜ⋯」


 儀蔵の身体が小さく震える。


「昔の俺によォ⋯」

  

 恐怖ではない。


「クククク⋯」


 高揚。

 

 興奮。

 

 血が沸くような感覚。


「来るんだろォ……?」


 握った拳が震える。


「優星……」


 獣のような笑みが浮かぶ。


「今度は逃げねェぞ……」


 その目は狂気に染まりながらも。


 どこか嬉しそうだった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

次話は7/20 20:00に投稿予定です。

続きも読んでもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ