第十五話 残された暗号
はじめまして、大森林総史です。
主人公・優星が復讐の果てに何を見るのか。
そんな物語を書いてみました。
よろしければお読みいただけると嬉しいです。
氷魔の部屋。
優星は、折れた刀を前に座り込んでいた。
月花もまた、静かにその様子を見守っている。
机の上には紙が広げられていた。
氷魔が残した暗号。
優星は何度も目を通し、書き写し、並べ替える。
やがて──
「……そういうことか」
(退魔のふりをしていた盗賊団を悪代官が裏で手引きし、私腹を肥やしていた。だが、本物の退魔剣士である姉さんと、いずれ戦いになる事を恐れ、儀蔵を雇っていた⋯これが真相か)
優星が顔を上げた。
月花が振り向く。
「分かったんですか?」
「ああ」
優星は静かに頷いた。
「師匠は、死ぬつもりじゃなかった」
月花の瞳が揺れる。
「えっ……?」
「この暗号は別れの言葉じゃない」
優星は紙を指差した。
「悪代官の名前と居場所だ」
月花は息を呑んだ。
氷魔は最後の瞬間まで戦っていた。
ただ死を待ったのではない。
全てを優星へ託していたのだ。
優星は立ち上がる。
「行く」
月花は止めなかった。
ただ静かに立ち上がる。
「優星様」
「…なんだ」
「お願いがあります」
優星は振り返る。
月花は真っ直ぐ見つめた。
「自分の手で裁こうとしないで下さい」
その言葉に優星は目を伏せる。
復讐。
その二文字は今も心の中にある。
だが。
月花の涙を見た。
震える手も見た。
だから。
優星はゆっくり頷いた。
「……分かった」
月花は少しだけ微笑んだ。
「行ってらっしゃい」
優星は静かに屋敷を後にした。
その頃。
悪代官の屋敷。
襖が開く。
儀蔵が入ってきた。
服には無数の傷。
乾いた血がこびりついている。
悪代官は顔をしかめた。
「戻ったか」
儀蔵は返事をしない。
「奴は仕留めたのか?」
しばし沈黙。
やがて儀蔵が口を開く。
「……分からねぇなァ」
悪代官の顔色が変わった。
「何だと!?」
机を叩く。
「それでも人斬りか!」
儀蔵は肩を竦めた。
「言い訳はしねェ」
悪代官は舌打ちする。
「役立たずめ……」
だが儀蔵は気にも留めない。
「それより」
血走った目が悪代官を見た。
「奴は忍びだァ」
悪代官の顔が青ざめる。
「何……?」
「あのガキだ」
優星の顔を思い出す。
あの冷たい瞳。
氷魔に似た目。
「多分、あんたの事もバレてるぜェ」
悪代官が立ち上がる。
「なっ……!」
額から汗が流れる。
「ど、どうすれば良い!?」
儀蔵は鼻で笑った。
「場所を変えるこった」
悪代官は慌てて家臣達を呼ぶ。
「急げ! 準備しろ!」
屋敷が騒がしくなる。
儀蔵はそれを眺めながら壁にもたれた。
やがて悪代官達が去る。
静寂。
儀蔵はひとりになった。
そして。
「フ⋯フフフ⋯」
口元が歪む。
「あのガキ……」
優星。
あの日の少年。
だがもう違う。
氷魔の弟子。
そして。
姉を失い。
人を斬り。
憎しみを抱え続けた男。
「似てるぜ⋯」
儀蔵の身体が小さく震える。
「昔の俺によォ⋯」
恐怖ではない。
「クククク⋯」
高揚。
興奮。
血が沸くような感覚。
「来るんだろォ……?」
握った拳が震える。
「優星……」
獣のような笑みが浮かぶ。
「今度は逃げねェぞ……」
その目は狂気に染まりながらも。
どこか嬉しそうだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
次話は7/20 20:00に投稿予定です。
続きも読んでもらえると嬉しいです。




