第十三話 赤い霧
はじめまして、大森林総史です。
主人公・優星が復讐の果てに何を見るのか。
そんな物語を書いてみました。
よろしければお読みいただけると嬉しいです。
山を駆ける。
嫌な予感が胸を締め付けていた。
折れた枝。
地面に残る血痕。
戦いの痕跡。
そして――。
突然、辺りが白く霞み始めた。
「……霧?」
優星は足を止める。
この季節に霧など珍しい。
しかも、山全体を覆うような濃さだ。
視界は悪い。
だが。
「血の匂い……」
確かにする。
濃厚な血の臭い。
優星は刀に手を添えた。
そして。
――ガキィィン!!
遠くで激しい金属音が響いた。
その直後。
静寂。
刀がぶつかり合う音が消えた。
優星の顔色が変わる。
「今の音は……刀が折れた……!?」
氷魔に鍛えられた耳。
聞き間違えるはずがない。
「まさか……師匠!」
優星は全力で駆け出した。
霧を切り裂きながら。
音のした場所へ。
そして。
そこに立っていたのは。
一人の男だった。
月明かりの下。
血の滴る刀を振り下ろしたまま。
地面には赤い雫が落ちている。
ぽたり⋯
ぽたり⋯
まるで雨のように。
優星の目が見開かれた。
「儀蔵!!」
男が振り返る。
鋭い眼光。
獣のような殺気。
だがどこか見覚えがあるような顔。
「……このガキ、どこかで……」
優星は刀を抜いた。
怒りで肩が震える。
「姉さんの仇!!」
儀蔵の目が細くなる。
「ああ……」
そして。
「……あの時のガキか」
思い出したように笑う。
「でかくなったもんだ」
「そうだ!!」
優星は叫ぶ。
「俺と戦え!!」
珍しく感情を露わにしていた。
冷静さなどない。
姉。
師匠。
全てが頭の中を駆け巡る。
だが。
儀蔵は静かに答えた。
「……そうしてぇとこだがな」
そして。
何かを放り投げた。
地面を転がる。
優星の足元で止まる。
「っ!?」
見覚えのある刀。
折れていた。
優星の顔色が変わる。
「これは……」
震える声。
「師匠の……!?」
儀蔵は口元を歪める。
「手強かったぜ」
血の付いた刀を肩に担ぐ。
「今の俺なら、お前にも倒せるかもしれねぇな」
「答えろ!!」
優星は叫んだ。
「師匠をどうした!!」
儀蔵は鼻で笑う。
「それ見たら分かるだろうが」
優星の拳が震える。
「師匠まで……」
「ああ」
儀蔵は答えた。
「斬った」
静かな声だった。
その一言が胸に突き刺さる。
「まだ探せば見つかるかもな」
儀蔵は続ける。
「死体くらいはよ」
優星の呼吸が止まる。
「くっ……師匠……」
その時。
儀蔵が言った。
「どうする?」
優星は顔を上げる。
「師匠の供養をしなくて良いのかい?」
言葉を失う。
追うべきか。
探すべきか。
頭が真っ白になる。
その沈黙を見て。
儀蔵は背を向けた。
「じゃあな」
霧の向こうへ歩き出す。
そして。
ふと思い出したように振り返った。
「そういや、名前聞いとくぜ」
優星は歯を食いしばる。
「……優星だ」
「優星か」
儀蔵は小さく呟いた。
「覚えとくぜ」
そして。
「あばよ」
霧の中へ消えていった。
「待て!!」
優星は叫ぶ。
だが追えない。
足が動かない。
師匠。
氷魔。
その存在が頭から離れなかった。
やがて。
儀蔵の気配も消えた。
優星はその場に立ち尽くす。
「に、逃がした……」
震える声。
「し、師匠を探さねば……」
優星は山中を駆け回った。
血痕を追う。
気配を探る。
何度も何度も。
夜が更けても。
探し続けた。
だが。
見つからない。
どこにも。
氷魔の姿はなかった。
血の跡も途中で途切れていた。
まるで最初から存在しなかったかのように。
「師匠……」
優星は呟く。
返事はない。
気配もない。
残されたのは。
折れた刀だけだった。
赤い霧が。
静かに山を包んでいた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
次話は7/16 20:00に投稿予定です。
続きも読んでもらえると嬉しいです。




