第十二話 鬼の行く先
はじめまして、大森林総史です。
主人公・優星が復讐の果てに何を見るのか。
そんな物語を書いてみました。
よろしければお読みいただけると嬉しいです。
夜。
氷魔は帰って来なかった。
優星は、一睡もできずに朝を迎えていた。
氷魔が遅れることはあっても、連絡もなく姿を消すことはない。
胸騒ぎがしていた。
嫌な予感だった。
「俺が探してくる」
短く言い残し、優星は屋敷を飛び出した。
月花は不安そうに見送る。
「どうか、ご無事で……」
優星は山へ向かった。
氷魔が調査に向かった方角へ。
その頃――。
山奥。
月明かりの下。
氷魔と儀蔵の刀が、激しくぶつかり合っていた。
ガギィン!!
火花が散る。
互角。
少なくとも最初はそうだった。
儀蔵の剣は速く、そして重い。
獣のように荒々しく見えるが、無駄がない。
氷魔も長年の経験で応じる。
だが。
「どうしたァ?」
儀蔵が笑う。
「動きが鈍ってるぜェ」
氷魔は答えない。
違和感があった。
目の前の男。
その姿が。
優星の未来に見えた。
憎しみ。
喪失。
孤独。
それらに飲み込まれた先。
そこに立つ男。
それが儀蔵だった。
「お前……」
氷魔が呟く。
「なんだァ⋯」
「妻……あるいは大切な者はいたのか」
儀蔵の動きが止まる。
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ。
そして。
「……斬られた」
低い声だった。
悲しみが僅かに響く。
氷魔は目を閉じる。
やはり。
優星と同じだ。
失ったのだ。
だから鬼になった。
だが。
この男は戻れなかった。
「そうか……」
「だからなんだァ?」
儀蔵の目に冷たい光が宿る。
「お前も説教する気かァ?」
「いや」
氷魔は静かに構える。
「ただ……哀れだと思っただけだ」
その言葉に。
儀蔵の目が血走り、狂気から殺気へと変わり一気に膨れ上がる。
空気が震えた。
「よ⋯余計なお世話だぁっ!!!」
儀蔵は刀を最上段に振り上げ、一気に振り下ろした。
「早い⋯!」
今までの儀蔵の攻撃が、子供騙しと思える程の凄まじい一撃が迫る。
ガギィンッ!!
氷魔は受け止めた。
「ぐ⋯重い⋯な⋯」
手の痺れが走る。
年齢による体力差。
長引くほど不利になる。
氷魔は理解していた。
このままでは勝てない。
逃げることも難しい。
ならば。
残すべきものを残す。
優星のために。
「逃げる気かぁっ!!!」
儀蔵は激昂し叫び声が響く、しかし、氷魔は構わず後退しようとする。
「逃がさんっ!!!」
儀蔵が、追撃する度に地面を赤く染める。
「ぐ⋯」
だが、それでも氷魔は後退しながら、木々の間を移動する。
その途中。
誰にも気付かれぬよう。
木の幹へ小さな傷を刻んだ。
一見すると意味のない傷。
だが違う。
優星だけが知る忍びの印。
幼い頃から教えた合図だった。
儀蔵は気付かない。
戦いに集中している。
だが氷魔は満足そうに笑った。
これでいい。
優星なら気付く。
きっと。
「何を笑ってやがる⋯」
儀蔵が踏み込む。
氷魔も応じる。
再び刀がぶつかる。
バキィッ⋯!!
轟音が山に響いた。
その頃。
優星は山道を駆けていた。
「今の音⋯刀が折れた⋯!?」
そして見つける。
折れた枝。
争った痕跡。
血痕。
嫌な予感が強くなる。
「師匠……」
足が速くなる。
月は高く昇っていた。
そして。
遠くから。
金属同士がぶつかる音が聞こえた。
優星は息を呑む。
その音の先へ。
全力で駆け出した。
鬼と鬼。
二人の剣士の戦いは。
まだ終わっていなかった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
次話は7/14 20:00に投稿予定です。
続きも読んでもらえると嬉しいです。




