第七話:手加減はデコピン一撃
「……南無阿弥陀仏。安らかに眠ってね、フォーハンドベア四号くん」
私は森の湿った地面に金剛杖を立て、目の前の「惨状」にそっと手を合わせた。
そこには、さっきまで元気に襲いかかってきた魔獣の姿がある。……いや、正確には「かつて魔獣だった、よくわからない肉片」が四散していた。
「ミズキ様……。またやっちまいましたな。これで通算三頭、すべて『買取不可』のゴミクズでございますぞ」
「違うのよゴン! 四聖たちの『軽い一撃』で、まさか熊が風船みたいに破裂するとは思わないじゃない! 白虎なんて、ちょっと前足でチョイチョイってしただけなのに!」
「あやつらの『チョイチョイ』は、あちらの世界の大型トラックが突っ込んでくるのと同じです。……というか、ミズキ様。ご自身のこともお忘れなく」
ゴンが呆れたように、私の持っている金剛杖を指差した。
「四頭目、四聖を引っ込めてご自身で対処されましたな。あの時のこと、覚えておいでで?」
「……ええ、覚えてるわよ。杖でポカッと叩いて気絶させようとしただけよ」
10歳の、銀髪で、細っこい腕の幼女の力なら、まあ気絶くらいで済むと思ったのだ。
でも結果は。
「『ポカッ』と一振りしただけで、熊の頭が地面にめり込んで、衝撃波で後ろの木が三本へし折れましたぞ。この体、どんだけ〜! って感じでございますな」
「本当によ。10歳の子供の体で、金剛杖の一撃が対戦車ミサイル並みなんて誰が思うわけ!? 霊力の出力がバグってるのよ……」
でも、私は学習した。そんな尊い犠牲があったからこそ、ついに極意を掴んだのだ。名付けて、デコピン!(そのまんまやないかい)
「ほら、五頭目が来たわよ! ――はぁっ!」
私は金剛杖を置き、素手で構えた。
突進してくる熊の鼻先に、霊力を99.9%カットした、至極優し〜い「デコピン」を放つ。
ピシッ!
「ガフッ!?」
巨体がまるで時間が止まったように硬直したあと、白目を剥いてドサリと倒れた。
破裂なし、欠損なし、綺麗な毛皮もそのままだ。
「やった……! やったわゴン! 完璧な手加減よ!」
「おおお! お見事です、ミズキ様! これならギルドで高値がつくこと間違いなしですな!」
「ふふーん。……あ、そうだ。手加減に集中しすぎて、本来の依頼の『薬草』を採るの忘れてたわ。ゴン、あとは分裂してお願いね」
私は倒れた熊の上にちょこんと腰掛け、やり遂げた感に浸った。
「……やれやれですな。主様がデコピンで遊んでいる間に、某がせっせと草むしりですか。因果な商売でございます」
ゴンはそう零しながらも、手慣れた様子で30匹に分裂し、草原へと散っていった。
さあ、お仕事が終わったら、次こそはこの熊を換金してお肉だ!




