第二話:管の狐と、お手伝い作戦開始!
「……さて、どこから手をつければいいものか」
金剛杖をコツコツと石畳に響かせながら歩いていると、不意に足元から懐かしい、でもこの場には似つかわしくない声が響いた。
「――っ! やっと見つけましたぞ、ミズキ様!」
「わわっ!? ……って、ゴン? ゴンなの?」
足元にいたのは、ふかふかの毛並みに二本の尻尾を持つ、小さな白い狐。私が使役している使い魔、管狐のゴンだった。ゴンは私の足元にまとわりつきながら、キャンキャンと嬉しそうに鳴いている。
「ゴン、あなたもここに来てたのね。っていうか……よく私だってわかったわね。今の私、自分でも誰だかわかんないくらいなんだけど」
「わかりますとも! 姿形が幼子になろうとも、ミズキ様の魂の輝きは見間違えませんって! 煤けてもなお鋭い、その魂の形は唯一無二でございます!」
「……褒めてるのよね? それ」
私は路地裏の隅っこに腰を下ろして、ゴンをひょいと抱き上げた。うん、このモフモフ感は間違いなくゴンだ。
「そうなんだ……。あ、もしかしてゴンがいるってことは、元の世界に帰る方法も知ってたりする? ほら、使い魔ってそういう異界の理に詳しかったりするじゃない」
「いやぁ、それが……。某も、気がついたらここにおりまして。どうしてここにいるのか、どうやって来たのかはさっぱりでして……面目次第もございません」
「そっかぁ。やっぱり、あの封印の失敗に巻き込まれただけなのかなぁ……。ゴン、他の子たちはどうしてるかわかる? 呼び出せるかな?」
「さぁ、どうでしょうか……。この世界、元の世界とは流れている『霊気』の性質がまるで違います。某がこうして具現化できているのも、ミズキ様と直接契約を結んでいたからでしょう」
「……試してみるしかないわね。でも、ここで派手な術を使って騒ぎになるのは勘弁。まずはこの街を見て回りましょう」
私はゴンを肩に乗せ、表通りへと歩き出した。
石造りの建物、行き交う馬車。まるでおとぎ話の世界に入り込んだみたいだけど、現実は非情である。
「……はぁ。お腹空いたね、ゴン」
「左様で。ミズキ様のお腹の虫も、先ほどから勇ましく鳴いておりますな」
所々に屋台があって、焼きたてパンやスパイスの効いたお肉の良い匂いが漂ってくる。でも、今の私には先立つものが一円……じゃなくて、この世界の硬貨が一枚もない。
「お金稼がないと、ご飯が食べられない。……転生初日で野垂れ死ぬなんて、退魔師の名が廃るわよね」
どうしたものかと掲示板のような場所を眺めていると、一枚の紙が目に飛び込んできた。
『大切にしている子猫を探しています。見つけてくれた方には謝礼を差し上げます』
「……これよ! 子猫を探して、謝礼をもらうのよ!」
これぞ、異世界生活の第一歩。題して「お手伝い作戦」、開始です!
「ゴン、出番よ。こういう探し物、あんたの得意分野でしょ?」
「お任せあれ! 某の鼻と霊力にかかれば、猫の一匹や二匹、すぐに見つけ出してみせましょう!」
「よし! そうと決まれば、まずは美味しいランチ代を稼ぎに行くわよ!」
私は金剛杖をギュッと握り直し、ゴンと共に異世界の路地裏へと駆け出した。




