第一話:鏡の中の「誰かさん」
意識の底から浮上した瞬間、鼻を突いたのは湿ったコンクリートの匂いではなく、どこか乾いた石と、焼きたてのパンのような香ばしい匂いだった。
「……う、頭が割れそう……」
重い瞼をこじ開ける。視界に飛び込んできたのは、高く澄み渡った青空と、見たこともない意匠の石造りの建物だった。
「……ここ、どこ? 確か、あの化け物を封印しようとして……」
ふらつく足取りで立ち上がる。体に違和感があった。視点が低い。いつもよりずっと地面が近いのだ。ふと横を見ると、路地裏の商店らしい窓ガラスが、鏡のように自分の姿を映し出していた。
「――っ!? ちょっと、誰これ!?」
思わず叫んで、自分の口を押さえた。ガラスの中にいるのは、透き通るような**銀色の髪**をした、人形のように整った顔立ちの少女。どう見ても10歳前後にしか見えない。
「え? もしかして、私……死んだの? それとも、あの妖魔に呪いでもかけられた?」
恐る恐る自分の顔に触れると、ガラスの中の美少女も同じ動作をした。ぷにぷにとした頬の感触。紛れもない現実だ。でも、鏡の中の自分はびっくりするほど整っていて、銀髪もどこか神秘的で……かわいいかも。
「う〜ん、やっぱり転生しちゃったのかなぁ? こんなことなら、昨日の夜、冷蔵庫に残してたプリン食べとくんだったわ……!」
思わず後悔が口をついて出る。だが、感傷に浸っている場合ではなかった。流石に若返りすぎである。まるっきりお子様だ。しかも――。
「っていうか、何この格好!?」
改めて自分の服装を見下ろして、みずきは絶句した。
着ていたはずのセーラー服はどこへやら。そこに現れたのは、伝統的な巫女服とは程遠い「何か」だった。
白地の衣は肩の部分が大胆にカットされ、赤い紐で結ばれている。袖は独立しており、二の腕が露出したデザイン。下は緋袴ではなく、膝上10センチほどのプリーツがついた赤いミニスカートだ。パンツが見えないか心配。
「……何これ、コスプレ? いわゆるゲームに出てくるような『改造巫女服』じゃない。私の趣味じゃないんだけど……。でも、まぁ、可愛いからアリなのかな?」
一瞬納得しかけたが、すぐに首を振る。
足元には、元の世界で愛用していた杖が転がっていた。見た目はシンプルな六角形の木の杖だが、芯には神鉄が使われている。私の霊力と最高に相性がいい武器なのだが、今の小さな体には自分の背丈ほどもある巨大な武器に見えた。
この時、私は気がついていなかった、それのなりの重さのある、金剛杖を小さい体で軽々と持っていることに、気がつけ自分!
「はぁ……状況が飲み込めないわね。こういう時って、神様が出てきて『キミ、死んじゃったから異世界に送るね!』みたいなテンションで説明してくれるんじゃないの?」
あたりを見渡すと、見えているのは石畳の街路と、中世ヨーロッパを思わせる建物、そして時折通り過ぎる馬車の音だけ。
やっぱりここは日本じゃないよね。
「……こういう商売してれば、『転生』なんて概念は知ってるけどさ。普通、元の世界で別の赤ちゃんに生まれ変わるとかじゃない? それはそれで人生やり直しで困るけども、なんでコスプレ衣装で異世界の街中に放り出されてるわけ?」
ふと左腕を見ると、見覚えのない銀色の腕輪が鈍い光を放っていた。
ん?こんなのしてたっけ?なんか、体には接触してない、不思議な感じ。魔法のアイテム的な何かかな?
「……とりあえず、突っ立ってても始まらないわね。まずはここがどこか、お祓いが必要な不届き者がいるかどうか、確かめさせてもらうわよ」
小さな手で重い金剛杖をグッと握り直し、みずき――銀髪の幼女退魔師は、未知の街へと力強く踏み出した。
「退魔師って職業あるのかな?」
評価あったら嬉しいかもです、感想とかもお待ちしております。




