精霊の彼女たちに感情はない(例外アリ)
追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!
https://hatuyuki-ku.com/?p=4566
ユーリは、顔を上げた。
「あいつは……他人を気にしていないんだ! どんな残酷なことも、平気で行える」
対面に座っている俺は、すぐ指摘する。
「ゲリラをしてるんだろ? 可愛くても、気性が荒くなるさ」
「そうじゃない! フランの場合は、虫を引きちぎるように殺せる」
言い切ったユーリは、首を振った。
理解できない俺が、反論する。
「待ってくれ! 今のフランの態度が、全て演技だと?」
「説明が難しい……。というのも、お前は知らないんだ。あいつの普段の姿を」
情報を整理した俺は、考えながら口にする。
「えーと……。俺に対してだけ、人間味があるのか?」
「そんな感じだ! お前が見聞きする範囲では、俺が知っているフランは出てこないだろう。いくら説明しても、お前には理解できんと思う。そこは気にするな」
青い顔のままで、ユーリはお茶を口にする。
それに釣られて、俺も――
(不自然に揺れている、水面……)
フランソワーズが、盗聴している?
風の精霊シルフィードのマリカ・フォン・ミシャールにかかれば、大気があれば盗聴もハグも暗殺も可能だ。
(それに比べれば、可愛いもの……。ん?)
ボーっとしている間にも、ユーリが話し続けていた。
「そういうわけで、フランを襲おうとした男は内部から破裂した! おそらく、体内の水分を弄ったんだろ……。血液だって、ある意味では同じだ」
訂正しよう。
水の精霊ウンディーネも、大概だった!
長くなりそうだから、口をはさむ。
「フランは危険で、上手く管理して欲しいってことだろ?」
「ま、まあな?」
首肯したユーリは、必死に動揺を抑えている。
俺も、妙に動いている水面を気にせず、お茶を飲んだ。
「いずれ耳にするだろうから、言っておく! サクリフィ王国にいた俺は、風の精霊シルフィードのマリカと一緒に学んでいた。色々あって、今はここにいるわけだが」
「風の精霊まで、いるのか!? お前は、その女を愛している――」
すかさず、片手を向けた。
俺のジェスチャーに、思わず口を閉じたユーリ。
伸ばした指で、自分のカップにある水面をさした。
次に、自分の片耳を指差す。
“水を通して、フランが聞いてる”
伝わったようで、ユーリはガタッと立ち上がる。
それを見た俺は、何事もなかったようにお茶を飲む。
「落ち着け! 今の質問に対する返事だが、ひとまず反帝国として最寄りの拠点を奪取する。フランと協力してな?」
これなら、問題ないだろ? という視線を投げかけた。
案の定、近くにある水は暴れ出さない。
「そ、そうか! なら、いいんだ……」
顔を引きつらせたまま、ユーリも座った。
けれど、お茶を飲む気配はない。
仕方ないので、俺が話を続ける。
「昔話だから、いちいち怒るなよ? マリカが風の精霊だと知ったのは、つい最近だ。あいつが何を考えていたのか? 最初から目覚めていたのか? どちらも不明だ。でも、聞く機会はあるだろ」
「どうして?」
理解できない表情のユーリに、説明する。
「フランが、マリカに俺が恋人になったと報告したらしい……。あいつは激怒したようだから、遠からず飛んでくると思う。文字通りに」
「はあっ!? ど、どうなるんだ?」
すがるような視線のユーリに、俺は達観したままで告げる。
「さあ? 世界が終わるかもしれん……」
俺としても、本当にキレたマリカがどう行動するのか、読み切れない。
ただ……。
(四元素の精霊には、感情というか、共感性がないのかも?)
普通の人間は、他者におきたことを自分に置き換えて、喜怒哀楽を示す。
もし、精霊にその部分がないとすれば。
(どれだけ虐殺しても、毛ほども感じない……)
それは、世界のバランスを保つための最終兵器。
女は周りに合わせるのが上手いから、普通の振りをするのは難しくないだろう。
(自分の感情を揺さぶる存在が、たった1人しかいないとすれば……)
そこに、妥協はない。
邪魔をするのなら、殺してでも奪い取る。
だって、代わりがいないから。
「ユーリ? 四元素の精霊は、そもそも世界を滅ぼすために存在しているのかもしれん」
「なっ! おい、それは本当――」
「思いついただけの仮説だ! ともかく、俺も早めに動いたほうがいい。命を助けてもらって、その恩人をマリカの怒りの余波で吹き飛ばしたでは、笑い話にもならん! 最悪、俺があんたらと離れれば、その意味での巻き添えはない」
息を吐いたユーリは、ようやくリーダーらしい顔に。
「そうだな……。どうするにせよ、まともな拠点を奪還しないと」
ここで、世間話に移った。
(反帝国として勢力を増やしたら、俺をどうするのか、怪しいもんだ……)
ユーリは、話が分かるやつだが。
俺を犠牲にして、全体を栄えさせる決断をしても、不思議はない。
(それに、マリカの性格から、帝国ごと吹き飛ばしてもおかしくない!)
問題は、彼女とフランソワーズが戦った場合に、どちらが勝つのか?
戦わずに和平は、まず無理だ。
(そういえば、アーデンティア帝国の捕虜になった聖女リナとシャーロットは?)
幸薄そうな女子2人までは、手が回らない。
マリカにとっても、助ける義理はないだろう。
彼女たちの幸運で、上手くいくかどうかってところ……。
過去作は、こちらです!
https://hatuyuki-ku.com/?page_id=31




