マリカさん、怒ってる(後編)
追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!
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1人だけマッチョな、タイロン。
他の騎士たちは、乙女ゲーに出てきそうだ。
いや、タイロンだって、女によっては好みだろう。
風の精霊シルフィードこと、マリカ・フォン・ミシャールは、どこにもいない。
しかし、いないからこそ、都合がいいのだ。
勝手に、結婚式を挙げると……。
納得できないタイロンは、両手の拳をギュッとしたまま、上げている。
ファイティングポーズだが、妙に可愛い。
同年代の若者たちも、慣れた様子でなだめる。
その時に、取り巻きを引き連れた若い男が、ドヤ顔で風の神殿の奥へ歩いていく。
注目した若者たちは、小さな声で会話。
「フラヴィオだ……」
「おーおー! あの得意げな顔!」
「ティエリー王子が即位すれば、シルフィード騎士団のトップ間違いなしか」
「サーヴァス会戦でぶん殴られ、騎士服を奪われたと知った時は、大笑いだったけどなあ……」
実は、デストロイヤー騎士団の隊長が殴って連れてきたのが、このフラヴィオ。
エレメンタル騎士団、その一部であるシルフィード騎士団の制服を奪われ、あわやスパイ容疑……とはならず!
父親がジェルマーノ公爵で、立場をなくしたティエリー王子を擁立する代わりに、息子の名誉挽回として、マリカとの結婚を認めさせたのだ。
シルフィードの夫となるフラヴィオは、その強さや履歴に関係なく、伝説の人物へ。
◇
「ジェルマーノ公爵……。やはり、私が――」
「いやいや! ティエリー様、そのお話は終わったではありませんか!」
エドゥアルド・ジェルマーノ公爵は、まだ言うのか、この馬鹿は。と呆れつつも、取り成した。
いっぽう、ティエリー・レ・サクリフィ王子は渋る。
「だがな? マリカは、私を助けに来た……。であれば――」
「殿下は、我がジェルマーノ公爵家の支援がなくても? 同じく会戦に立ち会った息子に栄誉を譲る代わりに、我が家は全力でお支え申し上げる。そのミシャール伯爵令嬢がいないから、十分な根回しや他の貴族を押さえることが肝要!」
言葉に詰まったティエリーは、やがて息を吐く。
「ミシャール伯爵は?」
「自分の領地へ逃げました! ご心配なく、公爵家として押さえますので」
やがて、正装になった関係者が、風の神殿の広い場所へ集まる。
シルフィード騎士団と神官たち、本来は立ち会う必要がない文官や見学者も……。
ワイワイと騒がしい広間で、ティエリー王子が話し出す。
「私は風の精霊シルフィードに助けられ、みなの前にいる! 密かにそのマリカ・フォン・ミシャール伯爵令嬢と会い、愛の告白をされたのだ!」
おおー! と、どよめく群衆。
満足げに頷いたティエリーが、語り出す。
「しかし、伯爵令嬢とでは釣り合わない……。私は泣く泣く断り、サーヴァス会戦にいたシルフィード騎士団のフラヴィオに譲ることにした! 知っての通り、彼は公爵令息だ! マリカ嬢にも、納得してもらった」
何か言いたげな群衆に、エドゥアルドが先手を打つ。
「私としても、断腸の思いです……。しかし、シルフィード様が納得した以上、それに反することは殿下とシルフィード様のどちらにも失礼! せめてもの償いとして、息子のフラヴィオに誠実な対応をさせたく存じます」
群衆の中に紛れているサクラが拍手を行い、静かに広まっていく。
ここで、ドヤ顔のフラヴィオ。
上にいる神官によって、儀式的な結婚が進められていく。
花嫁がいない結婚式はあり得ないが、風の精霊シルフィードとなれば、むしろ神秘的。
それに、神殿に祀られている女神像で事足りる。
やがて、地面が揺れ始めた。
それは小さく、最初は自分の感覚を疑うぐらいだったが。
どんどん大きくなり、広間の高い天井が崩れ始める。
慌てふためき、逃げ出そうとする群衆。
しかし、警備の兵士や騎士が出入口や壁際にいて、詰まってしまう。
「おい、退けよ!」
「外に出してくれ」
警備している側は、群衆を一斉に外に出したら、風の神殿の権威が失われると思う。
大勢で押し合う状態が続く中で、いよいよ天井が崩れ始めた。
けれど、その個所は、結婚式をやっている前のほうだけ。
「な、何だ?」
地面の揺れが収まったことから、誰かが振り向きながら、呟いた。
全員の視線が集まるのを待っていたように、空と繋がった天井の穴から突風が吹きこむ。
外側へ押し出すような流れで、誰もが両腕をクロスしつつ、耐えた。
再び、祭壇があるほうを見ると――
そこには、地面のすぐ上に浮かんでいる女がいた。
背中に、輝く翼が一対。
ミルクティー色のロング。
視線を感じたのか、振り向いた時に明るい茶色の瞳が見えた。
若い女だが、その雰囲気とプレッシャーは尋常ではない。
選ばれしフラヴィオは、満面の笑みに。
「おおっ! 我が妻よ――」
一瞬で接近したマリカのアッパーが、フラヴィオのあごを下から跳ね上げる。
縦に浮かんだ奴は、爪先による追撃で天井の穴から飛び出していく。
後ろに一回転したマリカも、瞬間移動のように追いかけた。
ロケットのように飛んでいくフラヴィオを追い越して、組んだ両手による打ち下ろしへ。
逆再生のように地上へ落下したフラヴィオは、結婚式を行っていた場所でクレーターを作った。
ふんっと鼻を鳴らしたマリカが、上空でどこかへ飛んでいく。
我に返った人間がクレーターを覗き込めば、そこには倒れ伏したフラヴィオの姿。
「あ、あが……」
声を漏らしたことから、まだ生きているらしい。
今の連撃に耐えることで、一生分の運を使い切ったようだ。
過去作は、こちらです!
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