何かが違う
来る日も来る日も練習をして、新しい曲を何曲も作る。
そしてどれもこれもが素晴らしい音楽に感じた。それは耳はドアに耳をそばだてて聞いている仲間の反応もそうだし、桜も気持ちよさそうだし、チョコも納得の表情を浮かべているのもそう。なにより私自身がとってもすごいと感じるし。
桜の声量は日に日に増え、ニュアンスに磨きがかかる。脇を固める楽器の演奏だって抜群だ。雲やチョコが上手いのはもちろんのこと、私のベースもどんどん上達している。
間違いなく前進しており、みんなからの賞賛の声で溢れている。
それなのに。
私は胸いっぱいに溢れる鉛で内側から押しつぶされていた。何もかもが気持ち悪くて、それを少しでも抑えるために文句ばかりを吐き出していた。
「雲はもう少し抑えた方がいいよ。ひけらかしすぎ」
「もっとニュアンスを汲んでよ、チョコ」
「なんかさぁ、もうちょっと桜は迫力出せないかなぁ」
「強い声が欲しいんだよ桜」
「桜は自分が一番だって主張して!」
何かが違う。
喉に小骨がつっかえたような違和感が消えず、どう演奏を変えても音の快感はやってこない。
それにもかかわらずバンド外の仲間たちの評価は上々で、それが私には理解できないし、気持ち悪くて仕方がなかった。
「どんどん良くなってるね」
「すごく格好よかったよ」
「バンドに厳しい! 桜はあんなにすごいのに、期待してるんだね!」
その感想でなぜ自分がゾワリとしてしまうのかがわからない。でもみんな褒めてくれるのだから、きっと方向性はあっているんだ。
いや、わかってる。
よくなってる。だから私が気持ち悪くなっているのがおかしいんだ。この先にもっと素晴らしい音楽が待っている。
進め。
迷いは何も生み出さない。
進め。
躊躇いなく。
もっとだ。
「桜、もっと必死に歌ってよ」
「黙りな、山猫」
鍵盤をパーで押さえつけて不協和音を鳴らし、チョコが私を睨んだ。
それに対して、腹が立つ。
「なんで黙らなきゃいけないの?」
「桜困ってんじゃん」
「だ、大丈夫だよ、チョコちゃん!」
「大丈夫だってよ?」
「気をつかってることもわかんないくらいコミュニケーションが苦手なんだっけ?」
「はぁ? 私は曲を良くしたいだけ。この程度のことで困られちゃ、こっちが困るんだけど」
「ご、ごめんね! 次はもっと——」
「桜も黙れ」
チョコはずいぶん気が立っていた。その殺気を隠しもせずに続ける。
「良くしたいだけ? 笑うんだけど。あんたが口だけすればするほど、どんどん曲のバランスが崩れておかしくなってるのがわからない?」
「バランスが崩れて何が悪いの? まだ曲作りの過程でしょ? 最終的にいい曲することが重要なんじゃん」
「あんたの言う方向じゃ、良くならないのはわかるよ」
「じゃあどうすればいいっていうの!」
思わず、ベースを振り上げてしまった。それを叩きつけたい衝動に駆られた。でもそんなことしたら私は演奏できなくなって、ぜんぜん嬉しくない。しなしなとへたり込み、膝に頭が埋まる。わかってるんだ、本当は。バンド外の仲間がどれほど褒めてくれたって、曲は練習すればするほど悪くなっている。私の無駄な言葉が痺れ薬のように音楽に廻って、硬直的で大雑把な曲に作り変えている。
私の言葉は、有害だ。
「山猫ちゃんは良くしたいだけ。それにウチが追いつけないだけだら、責めないで」
桜の真っ当で、優しい言葉。そこには善意しかなく、あまりにも彼女は素晴らしかった。それなのに私の心は、どうしてこんなにもささくれ立ってしまうのだろう。
「別に責めてるわけじゃない……。雲はどう思うわけ? あんたが始めたバンドでしょ? もっとちゃんと引っ張ったらどうなの?」
私は俯いていたので、雲がどんな表情をしているのかはわからない。でも彼女には珍しく、ひどくつまらなそうに言った。
「別にどっちでもいいんじゃないかしら〜」
「どっちでもいいって——」
「いい曲になろうが、悪い曲になろうが、私には関係ないことなのよね〜」
その投げっぱなしのような声に、予感があった。
四人の音マスはできたばかりだけれど、すでに崩壊しつつある。




