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戦争捕虜の少女たちが労働施設でロックバンド  作者:
みんな傷つけザラザラ山猫
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みんなの期待

「今度くるネクタリオ内務局長は会ったことがあるけれど、その作戦は悪くない」

 私たちの作戦を聞いたチョコは、思いのほか好意的だった。

 ムオンの偉い人に出し物としてバンド演奏を見せる。それで心変わりさせ、私たちを解放させる。なんていうのは客観的にとんでも計画だと思うけど。

「ネクタリオはとにかく新しいもの好きだし、実は外国の文化が好きなタイプだよ。そんなの民間人だったら捕まるけどね。それにとにかく改革派で、伝統とか既存の仕組みとかを壊したくて仕方ない。党でも相当煙たがられてる」

 とても変わった人なのだろうと、チョコの話ぶりから察せられる。

「いま党はとにかく労働力を増やそうって方針なんだけど、奴隷が生み出す利益よりも奴隷管理のコストの方がよっぽど大きいって言われることもあるんだ。彼自身は、奴隷を運用して生産するよりも、奴隷の作る文化の方が興味あるくらいじゃない? 『奴隷が不要』って理由付けができれば、飛びついて奴隷施設廃止して名誉住民にしちゃうかもね」

「ずいぶん詳しいのね〜。ネクタリオだなんて親しみがあって素敵! もしくは同僚みたいね!」

 雲がいうと、チョコはなんだかバツが悪そうな表情を浮かべた。

「よ、呼び捨てにしたことは黙っといてくれよ。口が滑ったんだ。私たち監察官からすれば殿上人だけれど、親の都合で小さな頃から知っていたから」

「そうなのね〜、ふふふ」

 雲の笑顔がなんだかいやらしい。

 ともかく、話を聞いているとネクタリオという人物が変わっているのは間違いない。なにせこの統一文化のムオンで外国の文化が好きだなんて。そういう意味では、音楽を聞いてくれそうではある。そして目立ちたがり屋に違いない。だって、わざわざ外国の文化が好きなことをチョコに話しているくらいだ。

 新しもの好きの目立ちたがり屋。党に煙たがられてるんだから人とぶつかるタイプでもあるんだろう。きっと主張を通したいタイプだ。だから、彼に都合の良い主張を私たちの都合に乗せて伝える。尚且つ彼がヒーローになれれば……。

 そんな音楽を、作れるだろうか。

「雲は何かアイディアはある? どんな歌詞にするとか」

 私が尋ねると、雲は首を傾げた。

「さぁ? 山猫さんが思った通りでいいと思うわ!」

 なんだか雲はずいぶんと他力本願だ。この計画を作ったのは雲だと言うのに、本人にそのやる気が感じられない。実際雲は、今までもこちらのイメージを形にしてくれることはあってもゼロイチを作ることはない。あまり好きじゃないのかもしれない。

「桜は……?」

「う、うちは、歌詞とかはよくわからないから」

「チョコは?」

「私はムオン人だから、ニッポニアの命運を握った作戦の責任は取れないよ。そっちで考えな」

「そもそもチョコさんは、どうして音マスに入ることにしたのかしら〜?」

 確かに、その疑問はもっともだ。

 私はずっとチョコと一緒にいたからなんとなく彼女の加入は当然な気がしていたが、彼女はどうしてこうも素直についてきてくれたのだろう。

「私はムオンが世界を統一すればいいと思ってる」

 戦勝国の彼女が言うには強すぎるセリフが、私の胸に突き刺さる。そんなの傲慢だ。しかし、次の出てきた言葉があまりにも優しかったから、私は声をあげる理由を失ってしまったんだ。

「ただ、世界の文化が混じり合ってみんなが自由になるなら、それでもいいんだ」

 覚悟を感じさせる声。当たり前だ。そうじゃなきゃ彼女は、こんな場所で秘密警察なんてやってはいないだろう。

 歌詞は私が考えよう。それを桜が歌い、雲とチョコが色付ける。そして、ネクタリオ内務局長を味方につけてやるんだ。


 普段の生活に戻ってきて最初の食事で、食堂の列に並び食事を受け取るときのことだった。

「ほら、今日のスープは肉が入ってるみたい。多めに入れとくね」

 特段親しくない給餌係が、私のお椀にたくさんのお肉をよそった。なぜだろうと彼女の顔を見ると、彼女はにっこりと笑って返した。

 なんだか嫌な予感がして、周りの捕虜を見る。こんなことで因縁をつけられでもしたらたまらない。しかし、他の捕虜たちもそれを気にした様子もなく、私だけが神経質になったみたいだった。その好意の理由がわからないまま、私は床に座ってその肉のたくさん入ったスープを食べた。

 美味しい。

 ちょうどいい歯切れの固形物なんて滅多に食べられないし、煮込まれて出た肉の風味もとっても染みる。温まるなぁ。

 ただ、またふと気になって周りを見る。私の周りには大勢、きつい労働をこなしている捕虜がたくさんいるし、彼女たちは私よりもよっぽどお腹が空いていて、余裕もないはずだった。でも『お肉たくさんスープ』に文句をつける人はいない。そんなもんだったっけ?


 食事が終わると音楽室に向かう。

 扉をあけるとチョコと桜はすでに練習を開始しており、桜がドラムスローンに座っていた。そして軽快にエイトビートを刻んでいた。結構うまいな。フィルインも格好いいし。

 見ていると、桜と目があった。

「桜ってドラムスできたんだっけ?」

「ううん! ……実はね、山猫ちゃんが懲罰房にいるときにさ、ベースを始めたでしょ? その音聞いてさ、すっごい上手だなって思って、別の楽器をやらなきゃなって思ったんだよね。まだまだだけど、本番までに上手くなるから、待っててね」

 そう言って再び彼女はドラムスを叩き始める。雲や私よりも筋肉があるためか、とても力強い音だ。少なくとも私よりも余程うまい。もともと上手かったのか、必死に練習したのかは懲罰房にいたからわからないが、私は感心と同時に少し心配もしてしまう。

「それってさ、叩きながら歌うことってできるの?」

「やってみたらわかるんじゃないかしら⁉︎」

 そのタイミングで入ってきた雲が提案した。

「正直、まだ全然自信ないんだけど……」

「やってみろよ桜。別にエイトビートを叩くだけでいいんだろ?」

 チョコが言うと、早速雲が挑発的なイントロを奏で始める。

「わわっ」

 慌てるようにそれに合わせて桜がパーカッションを刻み始める。

 ……微妙に合わない。桜のドラムスが安定していないためか、やや雲のギターもふらついているように感じる。

 しかししょうがない、私はその高飛車になりきれない雲のギターにベースの低音をぶつける。最高の不協和音がとどろき、メロディに緊張が走る。負けじと見せつけられる雲のテクニックに、ピックを弦に強く打ちつけて対抗する。

 打ち付ける。

 打ち付ける。

 打ち付ける。

 ……桜?

「ほら、ボーカル!」

「あ!」

 ドラムスに必死だった桜が、メロディの不協和音に飛び込んだ。

「う、ウチらは友達じゃないけろ」

 カエルかよ。

 どうやらドラムヴォーカルを桜が担当するには、まだまだ練習が必要みたいだ。


 練習を一区切りして休んでいるときに、音楽室の外から声が聞こえた。誰か病人でも運ばれてきたのかとドアを開けると、足に怪我をした捕虜が三人ほどやってきたところだった。雪山での作業だから、事故でもあればそういうこともある。

 処置を手伝いに行こうとすると「あ、大丈夫だからこのくらい。山猫は練習してなよ」と手毬が制してくる。

「え、でも」

「いいから!」

 まぁ手毬のグループは現在増員もあり、現在五人もいる。だから問題ないだろうが、手毬もずいぶん積極的に働いてくれるものだ。私は音楽室に向き直る。

「私たちって医療部隊なのにさ、ここにいるとその仕事、ほとんど手毬たちがやることになっちゃわない?」

 尋ねると、桜が取り繕うように返答した。

「それはね、手毬ちゃんたちからのお願いなの」

「そんなに手毬って仕事好きだったっけ?」

「違うよ! 本気で言ってるの?」

 珍しく桜の強い言葉に、私はちょっとだけ気おされた。

「じゃ、じゃあ、なに?」

「ウチらが練習に専念できるようにしてくれてるに決まってんじゃん。ひょっとすると音マスなら、何かを変えてくれるかもしれないって。……みんな、期待してるんだよ」

「……え?」

 私たちに期待している?

「私たちの計画に? あのとんでも計画に?」

「そうだよ。どんなに可能性が低くてもさ、もともとの可能性なんてゼロなんだから」

 私たちは捕虜で、奴隷だ。

 自分からできることなんてほとんどなくて、やれることとすれば待つことくらい。そんな中で、雲が動き出した。この施設の捕虜の中で、自由に動き回ることが可能なニッポニア進攻軍上級大将の娘。それが得体のしれない行動だったとしても、縋り付くのは当然だ。

 桜は噛み締めるように言った。

「むげにはできないよ。みんなの期待を」

 いつの間にか私たちの肩には、みんなの期待が乗っかっている。

 そうだ。

 だからこそ食堂でもみんな優しいし、私たちに対する怪訝な視線もなくなった。

 音マスは、私たちだけのバンドじゃなくなっていた。どうせ失敗するなんて言っていられない。もっと練習するんだ。もっといい曲を作るんだ。

 ここから出られる可能性を、少しでもあげる努力をしなきゃいけない。


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