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戦争捕虜の少女たちが労働施設でロックバンド  作者:
冒涜的チョコ・コーティング
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不安材料

 翌日は、桜も練習に加わった。

 桜はボーカルだが、今日は雲にこんなことを言っていた。

「ベース、やってみる〜?」

 桜はベースを試しに触ってみたがかなり悪戦苦闘している様子だった。

「ぜ、ぜんぜん上手く弦が押さえられないです!」

 あわあわ汗を流しながら頑張る桜に、雲は「最初はこんなものよ〜」と優しい声をかけた。

「ああそうだ! 山猫さん! 桜さんに音階を教えてあげて!」

「え、私ですか」

「……嫌なの?」

「そういうわけではないですが……」

 私は桜に、それぞれの弦の『はにほへといろは(ドレミファソラシド)』を教えてあげる。桜は運指の際に抑える指以外が浮いていたので、それではやりにくいかもしれないと思った。

「ちょっと貸して」

 私は全ての弦にうっすら触れながら、ピッキングする弦のみ強く抑える方法で弾いて見せた。軽快にはにほへといろはを奏でる。

「わわ、すごい桜ちゃん! ベースの経験者だったんだね!」

「いや、違うよ。音階を弾いただけだし」

「……じゃあウチが下手くそなだけなんだ……」

「そういうわけではっ」

「いろんな楽器があるのだし、桜さんもベース以外も好きな楽器を試してみるといいわ〜」

 雲がいうと、桜の視線がさまざまな楽器の間を泳ぐ。一瞬、一つの楽器に目が止まった気がした。ドラムスだった。しかし、すぐさま彼女の視線は手元に戻ってくる。

「い、いえ、まずはこの『べーす』なるものを練習してみます」

 桜は努力家だから、すぐに上手くなってしまうかもしれない。頑張らなきゃな。ああ、格好いいフィルインを叩きたい!

 

 練習もひと段落しみんなで休憩しているときに、水を飲みながら桜が言った。

「でも本当に、医療舞台は特別だよね。なんだか嘘みたいに楽し過ぎて、ちょっとみんなに悪いなって思っちゃう。ああ、違うよ! みんなを悪く言ってるわけじゃなくて」

 それは正直、私だって思う。

 本当は厳しい肉体労働の毎日のはずだった。その現実を捻じ曲げてしまう雲は本当に恐ろしい。

「そう思うのに、一日おきに働く桜は凄いよね。私はもう戻れないかも」

「でもこんなにいい状況って、本当にずっと続くのかなぁ……?」

「どういうこと?」

「チョコちゃんが言ってたんだけどね……。あ、チョコちゃんっていうのは一番かわいい監察官なんだけど」

 主観じゃねーか。

 でもなんとなく、あの一番背の小さい監察官のことかな、と想像がついた。

「なんだか雲ちゃんの特別待遇が過ぎるんじゃないかって、監察官の中に主張している人がいるみたいで。いや、具体的に何か決まったわけじゃないと思うんだけど……」

 雲は所長から宝物庫の管理を任されている。

 この宝物庫には、ムオンでは違法なものもあるそうだから、その扱いについて共産党にバレた際に責任を押し付ける対象として雲に押し付けられた役割だそうだ。結果として雲は所長と通じ、一般の監察官よりも立場が上がるという逆転現象が起きている。

 それを面白く思わない監察官がいるのもまた、間違いないだろう。

「大丈夫でしょうか? 雲さん」

「さぁ? 明日突然、殺されるかもしれないわ!」

 飄々とそんなことを言われても、私はなんと反応していいかわからない。


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