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戦争捕虜の少女たちが労働施設でロックバンド  作者:
冒涜的チョコ・コーティング
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チョコ=ヴィッテの正しいこと

 バクルシュミュール女子収容所での監察官の役割は、労働の規律を保つことだ。少なくともチョコ=ヴィッテはそう考えており、彼女にとって労働の現場に桜がいないのは困ることだった。

 ——誰を叩けばいいの!

 チョコは桜が優秀な労働者だと思っている。敵国の労働施設にも関わらずいつもハキハキと仕事をしており、意味のない作業にも一生懸命で笑顔を絶やさない。だから、桜が初めておかしなミスをした際も、すぐに直前でミスをした少女を庇ったんだなとわかった。ミスした少女よりも大きなミスを、ミスした少女よりも大声をあげて桜は行ったのだ。

 桜の意図を理解したから、チョコは桜を鞭で叩いた。できるだけ痛くなさそうなベルト付近を狙って。ばちん、と痛そうな音が鳴るように。そのときは見事にベルトに当たったと思ったのだが、桜は「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」と悲鳴を上げたため、狙いを外してしまったのかと思ったが、それは桜の演技だったようですぐに桜はチョコに会釈した。

 ミスした人は守られる。

 見せしめの暴力で規律が保たれる。

 つまりこれは『正しいこと』だ。

 そもそもチョコは捕虜に対して暴力を振いたいと思ったことなどなかったし、それで済むなら一番だ。こうしてその日から、チョコと桜は共犯関係になった。

 にも関わらず、最近の桜は二日に一度しか労働の現場にいない。そうすると、体力不足の捕虜や不注意な捕虜を鞭で叩かなければならない。チョコには桜以外に共犯関係はいないし、大抵の捕虜は叩かれる瞬間に動いてしまって痛い場所にあたってしまうこともある。いまも失敗した捕虜を叩かなければならないが、普段だったらそのミスに桜が声を被せてくれるのに!

 震える捕虜に対して「動くなよ」と忠告し、チョコは鞭を振り上げた。それを勢いよく振り下ろすが、対象は逃げるようにするものだから顔に当たってしまう。

 ——ああ、ごめ

 謝りそうになんとか堪える。そして、心にもないことを叫ぶのだ。

「今度そんなミスをしたら懲罰房にぶち込むからな! 怪我はないよな!」

「ごめんなさい!」

 怯える捕虜の表情をみて、どうしてこんなことをしているんだろうという思いと、仕方ないことなんだという諦観が交差した。

 チョコはなんだか、張り裂けそうだ。


 昼休み。チョコは管理棟の食堂へ向かった。監察官に供給される食事も本当にカロリーが不足している。ライ麦パンとチーズはかろうじて食べられるものの、すごくパサパサしていて口の中の水分は根こそぎ持っていかれた。

 横のテーブルでは、何やら話し合いがヒートアップしているようだった。

「もうやっていられないよ! なんで私たちが奴隷に配慮しなくちゃならないんだ」

「しょうがないだろう。党の決定なんだ。御久遠寺雲はいずれカードになるってな」

 御久遠寺雲はニッポニア進攻軍上級大将、御久遠寺正次の娘である。雲がなぜ軍に帯同していたかは不明だが、終戦時に他の女性と共にこの施設へとやってきた。

 そして実際に、チョコたち監察官には『御久遠寺雲を殺してはならない』という指令がされており、彼女に対しては圧倒的に優しい処遇になっているのも確かだった。ここは奴隷施設ではなく捕虜収容所だ。だから本来誰一人殺してはいけない。それでも厳しい環境なのは間違いないから、強制労働中の事故で死んでしまうこともあれば自殺だってある。

 特別扱いしなければいけないことは、監察官にとっては屈辱的なのだ。

「知るかよ。だったらこんなところに置いとくなって話だろ。政府監獄にでも放り込んどけばいいんだ」

 雲に関する反感は日に日に高まっている。

 それはそうだろう。様々な物品のある倉庫に入り浸って楽器遊びに興じているなんてまるで貴族だ。

「怒るなって」

「これが怒らずにいられるか。なんでムオン人の私たちより、クソニッポニアの小娘の待遇がいいなんて」

「まぁ、ちょっと待てよ。実はさ。考えがあるんだ」

「んん? 事故に見せかけて殺っちまおうって? そんなことしたら私たちが処刑だ」

「直接御久遠寺を狙ったらそうかもな」

「……どういうこと?」

「なんでもあいつはさ、共産党のお偉いさんに見せる余興のために楽器の練習をしてるらしい。バンドを組んで、必死なんだよ。それで自分の価値が認められれば出られるとでも思ってるんじゃないか?」

「そんなわけねーじゃん」

「ああ、そんなわけないと思う。でも、本人が希望を持ってるのがムカつくわけだろ?」

「まぁ、そうかな」

「だったらさ、別に本人をなんとかしなきゃいけないわけじゃないんだよ」

「……確かに。バンド、一緒に練習しているやつもいるもんなぁ。お前、本当に悪いこと考えるよ」

 御久遠寺雲は、医療部隊の中でバンドを作っているらしい。

 そして、確か桜も最近医療部隊に入っている。

 まさか……桜が?


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