思惑のない雲
「私たちも余興に参加してもよろしいでしょうか」
コンサートを開催して三日が過ぎた頃、手毬はそんなことを言い出した。
「あらあら嬉しいわ! いったい何をするのかしら〜?」
「舞踊の心得があるので、みんなでやろうと思います。私たちも練習します。雲さんたちばっかり楽しそうで、ズルいので」
桜の歌は、どうやら手毬の心に変化をもたらした。それは私としてもよかったことだ。もし手毬たちが雑な仕掛けでムオンに攻撃をして、私たちも共謀を疑われたらたまったものではないし。
待機室から出ていった手毬について私も出ていった。なんとなく、雲がいない場所の方が本音を聞ける気がしたから。
「なんで舞踊なの?」
なんなら、手毬たちもバンドに入るんじゃないかと思っていた。
「言ったじゃん、舞踊習ってたんだって」
「ふ〜ん」
すると、ちょっと悔しそうな顔をして手毬は言った。
「一緒に音楽をやったって、私は主役になれないし。雲さんは別格で、桜もすごかった」
「目立ちたがり屋!」
「あんたは大したことなかったけどね」
返す言葉もございませんが。
「いいよ、私たちは三人で目立つの。とっても可愛い踊りを踊るわ。それでもし共産党の格好いい人がいたら、私を連れ出してもらうんだから」
「いいの? ムオン人は、敵だよ?」
「ニッポニアを悪くしないでって頼んでみるよ。……別にニッポニアを裏切るわけじゃない!」
手毬は前よりもずっと前を見ていた。
なんだかとてもしなやかで、したたかだ。私は手毬に言ってやる。
「まだ連れ出されてないけどね」
「はぁ? うっさ」
言いつつ、手毬は妖艶に笑った。手毬は可愛かった。だから私は、手毬がバンドに入ればいいと思ったんだ。
ところで、桜は奴隷仕事も続けていた。
みんなに悪いからという理由で、この特権階級的処遇をよしとしないようだった。一日おきに、桜は肉体労働に従事していて、この日は練習に参加していない。私は音楽室に戻り、なんとなく雲に言った。
「最初誰かをバンドに誘えって雲さんに言われたとき、手毬を誘えって言われたんだと思ってました」
だからこそ医療部隊に手毬を入隊させて、練習しやすくしたと思ったのだけど。
「あら〜、それで誘ったの? 連れてこなかったと思うのだけど」
「誘ったけど、一度断られたんですよね……」
「まぁ! 桜さんは保険だったのね!」
「いや、そういうわけじゃないですよ。……単純に、桜の良さに気がついていなかったので。……あの、雲さんの本命は誰だったんですか?」
「山猫さんね〜」
「そういうのいいですから。もしかして、私が桜を連れてくることまでわかってたりして」
「そんなわけないでしょう? 別に誰でもよかったわ〜」
「変な人を連れてきたら、バンドが壊れちゃうかもしれないですよ」
「そうしたら、脱退させればいいじゃない!」
竹を割ったような回答だ。
「私としては、まぁいい人を連れてくればそれでよし。そうじゃなくても、山猫さんが連れてくることに意味があると思ったのよ」
「どんな意味が?」
「山猫さんもお友達がいた方が楽しいと思わない?」
「私の友達枠!」
「でも桜さんは素敵よね〜」
そう言ってもらえるのなら、桜を誘えてよかったと思う。彼女の魅力的な笑顔、スッと入ってくる歌声はボーカルにぴったりだ。
「桜さんはとっても筋肉がついているし、いつもタイミングをとるのもとっても上手ですものね〜」
「筋肉とタイミングですか」
ずいぶん私と見方が違うなぁ。
やっぱり雲の考えていることはよくわからない。




