祭野桜の介入
桜は実家でも、軍でも、このバクルシュミュール女子収容所でもいつだって他人を観察していた。
誰と誰が仲良くしていて、誰と誰が不仲かは手に取るようにわかるし、新しい繋がりが生まれつつあればどうしたって目が行ってしまう。
最近、手毬はある監察官と接触することが増えている。名前はビーツ=クバルニアで、少し前まで雲と親しくしていた人だ。
手毬が食堂にやってくるときや、寝室までの監視の際に、ビーツの方から手毬に話しかけることもあるようだった。
ふたりの会話は内緒話ではあるものの、完全に隠そうとしているわけでもないので断片が聞こえる。
振る舞う、とか、いつにする、とかそんな話で、ようするに手毬が何かをビーツに渡そうとしているのだと思った。
何を振る舞うか、といえばおそらく倉庫の中の何かだろう。ビーツは以前より雲と仲良くしていたのも、倉庫の中の何かが気になっていたのかもしれない。
なぜだか桜は父の姿を頭に浮かべた。
酒がないぞ、と声を荒らげる父。それほどに、アルコールというのは人を狂わせることがある。アルコールじゃなかったとして、何か別の薬物でもあるのだろうか。あまり金目の盗まれるものがこの倉庫に流れ着くとは考えづらいので、あるとすればそういった類ではないだろうか。
「じゃあ、よろしく」
と、ビーツはポンと手毬の肩を叩いた。桜はビーツが行ったのを確認してから手毬と接触した。
「手毬ちゃん、作戦順調そうだね〜」
笑顔で笑いかけると、あたりをキョロキョロしながら手毬は挙動不審に言った。
「まぁ、今のところはね」
桜は手毬の耳に近づけて言った。
「お酒に毒を混ぜてパーティでもするの?」
手毬の顔がサッと青ざめるのがわかった。
「ひょっとして私たちの作戦、漏れてる?」
「うん。でも一部の捕虜の間だと思う。ムオンにはバレてないと思うよ。たぶん」
本当は漏れ出た噂を聞いたわけではなくて、知っていた情報から推測しただけだが、それは当たったらしかった。しかし桜は手毬に話を合わせ、話が漏れていたことにする。
「や、やばいかな? 実行する前に捕まっちゃったりして」
手毬は慣れないことをやっているので、いたく動揺している。いまなら止められるだろうか。いや、多分無理だ。ここまで話を進めてしまったら、きっと止められない。
「だだ、大丈夫だよ。きっとうまく行くよ」
「……てゆうか、桜ってずいぶん他人事だよね。私が命をかけて頑張ってるの、わかってる?」
「も、もちろんだよ」
「いまムオンはピンチなんだ。叩くなら今しかない。だからやってんの。使命感を持って」
「そうだよね」
「桜はいつもぼんやりしててさ、いいよね。いっつも流されて生きてるんでしょ」
手毬のストレスが手に取るようにわかった。ムオンの監察官に毒を盛るとなれば命をかけてるのだって本当だし、彼女自身引くに引けなくなってしまったのだと思う。
だから意味もなく桜に当たることでしか、手毬自身を誤魔化すことはできない。
「そう。だからね。流されにきたんだ」
「はぁ? 喧嘩売ってんの?」
不安でいっぱいの胸を虚勢だらけの表情で隠す手毬に対して、桜は心の中で呟いた。
——いいよ。逃げ道をあげる。
「ウチももっと協力できるよ。一番危険なところ、私にやらせて」
手毬はごくりと唾を飲んだ。
そして、少し悩むように口元に手をやるが、それはポーズだと桜にはわかった。手毬はもう、桜を使うことを心に決めているのだ。




