9話・ヤベェ、シオン以外に俺の秘密がバレてしまったんだけど……。てか、シオンもだいぶメンタルがきつそうだな。
天馬市の市民病院、5階の病室。
姿勢を直したコトラさんが、しっかりとした声を発した。
「トバリ君は何属性持ちかしら?」
「……メガネとカラコンを外しますね」
「ええ」
「シオン、カーテンを閉めて欲しい」
「はいはい」
シオンが病室のカーテンをリモコンで閉めた後、トバリは黒縁メガネとカラコンを外してテーブルに置いた。
「「金色の目」」
「俺の属性は雷です」
コトラとシオンがトバリの金色の目を見て呟いた。
「トバリ君がレア属性の雷を持っているなんてね」
「雷がレアなのは知ってますが、そんなに驚くことなんですか?」
「ええ! 雷属性は覚醒者の中でも30人に1人しかいないのよ」
「そ、そんなに……。じゃあ強引に隠して正解ですね」
〈いや待って!? 確かにゲームでも雷属性はレア扱いされたけど、そこまで割合が低くないぞ!〉
固まるトバリに、コトラが自分の頬をハンカチで拭く。
「ええ。でもトバリ君はいつ覚醒したの?」
「最近ですね……」
「な、なあトバリ、貴様はどんな辛い鍛錬して覚醒させたんだ?」
「いや? 朝起きたら覚醒していた」
「「は!?」」
トバリの一言に、コトラとシオンが口を大きく開けた。
「いやいや!? おいトバリ、その嘘は流石にやめてくれ!」
「……え? なあシオン、普通の覚醒者ってどうやって属性魔法を手に入れるんだ?」
「そんなの、才能があるやつが長年鍛錬してやっと属性魔法が覚醒する……は? 貴様はマジで寝て起きたら覚醒していたのか?」
「うん」
「「ええ!?」」
コクリと頷いたトバリに、2人は唖然とした。
「ぜ、前例はあるけど……。トバリ君、本当なの?」
「はい、本当です。というか、自分はモヤシで鍛えているように見えますか?」
「トバリには失礼だけど見えない!」
「ですよねー」
素直な返答にトバリが死んだ魚のような目を浮かべる。
ベッドで座るトバリは、隣のベッドの上で正座するシオンに目を向けた。
「おいシオン。お前のせいで話がややこしいことになっただろうが!」
「わ、わたし!? た、確かに、わたしは原因を作ったけど、お前の説明だっておかしいだろうが!」
「嘘は言ってないぞ」
「だからタチが悪いんだよ!!」
叫ぶシオンに、コトラが軽く息を吐く。
「トバリ君が嘘を言っているような目には見えないわ」
「あ、はい、ありがとうございます」
「でもねトバリ君。その雷属性をどう使うつもり?」
「自分のために使います」
コトラの真剣な瞳に、トバリは真顔で頷いた。
「そう……。もしよかったら、ウチが経営している道場で鍛える?」
「嫌です!」
「ええ!? 確実に強くなれるわよ!」
「ああ、お婆様。コイツは、誰かに教わるより自分で試行錯誤する方が好きな変態なんだ」
「そ、そうなの!?」
目を見開くコトラに、トバリがシオンにジト目を向ける。
「変態バカに言われたくはない!」
「ごめん! って、トバリだって寝ていただけで覚醒したおかしなやつだろ」
「それはそう」
トバリは笑顔で言葉を返す。
「チッ! わたしにも貴様みたいな才能が欲しかった!」
「……あ、ああ」
「なあトバリ! わたしにも才能をくれよ!!」
シオンが悔しそうに歯を鳴らす。
その姿にトバリは目を逸らし、コトラがため息を吐いた。
「シオンには悪いけど、才能は生まれつきで今更変えられないわ」
「知ってる! でもわたしだって、才能を手にして姉さんやトウカに勝ちたい! それでみんなに認めてもらいたいんだよ!!」
「……シオン」
〈ん? 今コイツ、トウカって言わなかったか?〉
シオンの嘆きにコトラが唇を噛む中、トバリが引っ掛かりを覚える。
「あの、コトラさん。シオンには姉と妹がいるんですか?」
「え、ええ。姉のカレンと、双子の妹のトウカね」
「なるほど……」
〈と、なると、原作のメインヒロインの如月トウカは別にいて、コイツはそのトウカの双子の姉か! よし、最悪は回避したな!〉
トバリは安堵したように胸に手を置く。
するとシオンが悔しそうに、トバリを睨む。
「おいトバリ! やっぱり貴様もわたしよりトウカの方がいいのか?」
「……なあシオン。俺が言えるセリフじゃないのはわかるけど、一旦落ちつかないか?」
「は? 貴様に言われたくない!」
「そうかい。ならさ、俺はお前に何を言えばいいんだ?」
「えっ」
トバリは辛そうに言葉を返し、シオンが固まった。
「わ、わたしは……わからない」
「じゃあ、俺に出来ることはなさそうだな」
トバリはテーブルに置いてあるカラコンをつけ、度の入った黒縁メガネをかけた。
「い、いや! トバリまでわたしを置いていかないでくれ!」
「悪いけど、お前が選んだ結果だ」
トバリはベッドから出て、痛む背中を軽く撫でながら外に向かう。
その時にコトラが難しい顔をして、シオンが涙を流しながら手を伸ばす。
〈今は互いに落ち着く時間が欲しいよな〉
軽く息を吐いたトバリは、病院服にスリッパ姿で病室の外に出た。
ーー
市民病院の中にある庭園。
トバリはベンチに座り自販機で購入した緑茶を飲む。
〈まさか、如月トウカに双子の姉がいるとはな……。まあでも、よくよく考えたら出会った時に双子の妹がいると言っていたし、その時に気づけばよかった〉
悔しそうに唇を噛むトバリは、曇った空を見上げる。
「俺は何をやっているんだろう」
〈大人の俺がこのザマかよ。これじゃあ28歳の貫禄や社会経験が泣きそうだな〉
トバリは自虐気味に笑う。
「本当なら俺は取り巻き2で才能ないはずなのに……。主役みたいに調子に乗るのがダメだったんだ」
涙を流すトバリの元に空から雨が降ってきた。
〈シオンに合わせる顔がない。やっぱり俺が如月家に関わるのが間違いだったのか〉
トバリは雨を浴びながら唇を噛んだ。
そこに大きなビニール傘を持ったシオンが、隣に座った。
「トバリ……」
辛そうな顔をしてトバリの隣に座ったシオンは、痛みで顔を歪めながらもう一本のビニール傘を渡そうとする。
「シオン。俺は、俺は」
「ああ、大丈夫。わたしの方こそすまない」
「え?」
ポロポロと涙を流すシオンは、自分の傘を閉じた。
「さっきのわたしはお前に酷い八つ当たりをしてしまった」
「い、いや、俺のほうこそ……」
「ったく、貴様は周りを気にしすぎだ」
シオンがくしゃくしゃな顔で、トバリに優しく抱きつく。
その暖かさにトバリは苦笑いを浮かべる。
「アホ」
「わたしはアホだ。だからさ、わたしにお仕置きしてくれないか?」
「……は?」
ニヤリと笑うシオンに、トバリが首を傾げる。
「アホなわたしを容赦なくぶん殴ってくれ!」
「よし、お前は病院に行け!!」
「ここが病院だぞ!」
唖然とするトバリに対して、シオンがガーゼを貼った頬を差し出してくる。
「それとも別の部位の方がいいか?」
「先生! ここに頭のおかしなアホがいます!?」
「おいいぃ!? 急に助けを求めるな!」
点滴を持つシオンが突っ込む中、トバリは悲鳴をあげた。
2人のアホなやりとりに、途中から来たコトラは少し離れたところで微笑んだ。




