10話・コトラさん、とんでもない剣を用意してませんか?
2人がゴブリンソードマンに辛勝してから約3ヶ月後の7月中旬の土曜日。
トバリは如月家の屋敷にきており、シオンと共に客室に座っていた。
「やっとまともに座れる!」
「お、おう、お前、この3ヶ月は歩き方がぎこちなかったよな」
「そりゃ戦闘の傷がかなり酷かったのと厳しかった折檻のせいだ! ううっ、今思い出すだけでお尻がズキズキする」
「今も痛いのか?」
「いや、かなりマシだ!」
ホッと息を吐くシオンに、トバリがぎこちなく微笑む。
「よかった。それで俺はなんで呼び出されたんだ?」
「そこはお婆様から聞いてくれ」
「ああ。この3ヶ月は、山は地方騎士が調査してて行けなかったし、声をかけてくれて助かったぞ」
「ふふん! 貴様はわたしに感謝しろよ」
自信満々に胸を張るシオンに、トバリがジト目を向ける。
「はいはい。調子に乗るお前はまたコトラさんに折檻されたらどうだ?」
「貴様は鬼畜か!?」
「さあな? それに、お前は嬉しそうだな」
「今更か!?」
「なんかごめん!」
トバリが頭を下げると、シオンが柔らかく微笑んだ。
「今回は許してやる」
「ありがとう。で、なんで嬉しがっているんだ?」
「実は昨日の模擬戦でついにトウカに初めて勝ったんだよ!」
「トウカってお前の双子の妹で天才だったか?」
「すごいだろ!」
対面の席に座るシオンのテンションの高さに、トバリがニヤリと笑う。
「お前、本当にすごいな」
「ああ! なあトバリ、わたしにご褒美をくれないか?」
「えー……。自分で言い出すのかよ」
「もちろん! それでトバリはわたしにどんなご褒美をくれるんだ?」
「確定かよ!?」
シオンは目を輝かせながらトバリを見る。
「無理にとは言わない」
「別にいいさ。それで噂の天才にどう勝ったんだ?」
「それが、途中まではボコボコにされていたんだけど、トウカの木刀を掴んで引っ張ってこけさせてからマウントを取って殴りまくったんだよ」
「急に泥臭くなったな!? お前、それでいいのか?」
「ああ! 周りはドン引きしていたが勝ちは勝ちだろ!」
トバリのツッコミに、シオンが頷いた。
「いやあの、模擬戦のルールとして問題ないのかよ」
「ウチの模擬戦は殺したりアイテムを使うのはダメだけど、体術や絡め手はOKだしな」
「お、おう、なら殴るのはセーフなのか」
「そういうこと!」
特殊な模擬戦のルールを理解したトバリが、頬を引きつらせる。
「あ、ああ。まあでも、お前が勝ててよかったよ」
「うん! なあトバリ、病院の時みたいに抱きついてもいいか?」
「恥ずかしいからやだ!」
「ケチ!」
道着姿のシオンが腕をまくり、アザを見せてきた。
「わたしはアザだらけで頑張ったんだぞ」
「ポーションや回復魔法で治したらどうだ?」
「おい!? 回復薬やポーションはそこそこ値段がするし、回復魔法は水と光しかできないんだぞ!」
「確かに……。ん? じゃあ、お前は毎日傷だらけなのか?」
「そうなる! でも痛みには強くなれたぞ」
笑顔のシオンに、私服姿のトバリが唖然とする。
その時、客室の襖が開いてコトラが風呂敷に包まれた荷物を持ちながら現れた。
「トバリ君、お待たせしたわね」
「いえ、大丈夫ですよ! って、なんでシオンがこっちに来るんだよ!」
「別にいいだろ! それでお婆様、ついにトバリの剣が出来たのか?」
「ええ! 知り合いの凄腕鍛冶師がいい笑顔で持ってきたわ」
〈……え? いやあの、俺はてっきりそこそこの鍛治師に白銀の剣レベルか、少し性能が良さそうな片手剣を考えてたんだけど?〉
首を傾げるトバリに、コトラが風呂敷を広げた。
風呂敷の中に入っていたのは、高級そうな黒の鞘に入った1本の片手剣だった。
「トバリ君、持ってみて」
「は、はい」
トバリは左側に座るシオンをチラッと見た後、視線を片手剣に戻した。
そのまま片手剣を手にしたトバリは、鞘から刃を出す。
「綺麗な銀色ですね」
「この片手剣の素材はヒイロガネみたいよ」
「……え? ヒイロガネって超高級金属でしたよね!?」
「そうそう! しかもその片手剣には〈軽量化〉と〈自己修復〉のエンチャントがついているわ!」
コトラの説明にトバリが口を大きく開けた。
「ふあっ!? 下手したら魔剣くらい強くないですか?」
「さあ? わたしにはよくわからないけど、いい剣なのは確かね」
わざとらしく微笑むコトラへ、トバリが目尻を抑える。
「そ、そうですか。……いや、本当にもらってもいいんですか?」
「もちろん! あとその片手剣の名前はソーディアらしいわ」
〈ソーディア? そんな名前の片手剣、テスタメントソウルにあったか?〉
首を傾げるトバリは、ソーディアの刃を鞘に戻す。
「コトラさん、ありがとうございます!」
「こちらこそよ! それでトバリ君はこの後はどうするの?」
「んー。今は13時過ぎなので家に帰ってからゲームをしたいですね」
「おいトバリ! わたしの相手をしてくれないのか!」
「いやだって、お前とはこの3ヶ月ほぼ毎日出会っているだろ!?」
トバリがため息を吐き、シオンが目をウルウルとさせた。
「わたしはトバリともっと話したいぞ」
「お、おう、コトラさん、ソーディアをありがとうございました!」
「だから帰ろうとするな!?」
逃げようとしたトバリをシオンが強引に押し倒した。
「おい!? 離れろ!」
「やだ!」
「あらあら、トバリ君には悪いけどバカ孫娘の相手をお願いね」
「コトラさん待って!?」
笑顔で客室から出ていくコトラに、トバリが手を伸ばした。
「ふふふっ。ここからはわたしの番だな」
「ええ……」
トバリは死んだ魚のような目を浮かべ、シオンが軽く息を吐いた。
「トバリはわたしに何をしてくれるんだ?」
「それ、押し倒したやつに言うセリフか?」
「別にいいだろ!」
〈なんでコイツの好感度が上がっているんだよ!?〉
唖然とするトバリをよそに、シオンがジッと顔を見つめてくるのだった。




